エマ・ワトソンが悪女に? 映画『ブリングリング』で演じるティーンエイジャー強盗団の真実

映画

公開日:2013/12/1

 真っ赤な口紅にアイシャドウ、ブランド物を身に着けタバコをふかし、ナイトクラブへと出掛けていく。その少女の顔をよく見ると……あの『ハリーポッター』のハーマイオニーじゃないか! まさか、あの魔法学校の可憐な優等生ハーマイオニーが不良少女になってしまうとは。

 と思ったら、これは別の映画の話。

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 ソフィア・コッポラ監督、エマ・ワトソン主演の映画『ブリングリング』が12月14日に公開される。エマが演じるのはハリウッドセレブの自宅ばかりを狙うティーンエイジャー強盗団の1人、ニッキーという少女だ。今までのイメージを覆すような役柄にエマが挑んだことが話題となっているこの作品、実は全米中のマスコミを震撼させた現実の事件をもとに製作されたものであり、エマの役にもモデルとなる人物がいる。

 実在したティーエイジャー強盗団とは一体どのような若者たちだったのか。原作となったノンフィクション『ブリングリング こうして僕たちはハリウッドセレブから300万ドルを盗んだ』(ナンシー・ジョー・セールズ:著、高橋璃子:訳/早川書房)からその実像に迫ってみよう。

 事件が起こったのは08年~09年の間。パリス・ヒルトン、オーランド・ブルーム、リンジー・ローハンといった錚々たるセレブの豪邸が次々と襲撃され、総額300万ドル(約3億円)相当の洋服、ジュエリーなどが盗み出された。

 後に「ブリングリング」=“キラキラ派手な強盗団”と名付けられた犯行グループのメンバーはいずれも10代の少年少女で、ロサンゼルス近郊のカラバサスという富裕層の多い街の出身であった。

 彼らの手口は以下の通りである。まずセレブの自宅住所と家の写真を入手できる会員制ウェブサイトでターゲットの情報をチェックする。続いてグーグルアースで自宅を偵察し侵入可能な経路を見つけたら、後は勢いに任せて突入、まるでショッピングをするような感覚で高級品を物色しながら盗みを働く。そして盗んだ品物を身に着けて、夜のパーティーへと繰り出し仲間に見せびらかすのだ。

 そう、「ブリングリング」が強盗をする目的は、盗品を金銭に変えるためではない。セレブが愛用するモノを所有することによって、自分もハリウッドセレブのライフスタイルを手に入れた気分になること、これが彼らの一番望んだものなのだ。

 彼らの強烈なセレブ願望は止まる事を知らない。主犯格の少年、ニックの自白により犯行が発覚した後も、パパラッチを中心としたマスコミが強盗団をスター扱いしたことで更にエスカレートする。

 なかでも鮮烈な印象を残すのがエマ演ずるニッキーのモデルとなった少女、アレクシス・ネイエーズである。もともと下着モデルなどをこなすタレントの卵だったアレクシスは、何と強盗事件で起訴された後も自分が出演するリアリティ番組のクルーを裁判所に入れ、裁判の模様を収録させてテレビに流そうとしたのだ。有名になるためにはスキャンダルもとことん利用するこの根性、まさにパリス・ヒルトンやリンジー・ローハンといったお騒がせセレブの生き様をそっくり真似ているようである。

 「ブリングリング」のような若者たちが誕生した背景について、筆者のナンシー・ジョー・セールズはアメリカ社会全体の「セレブ中毒社会」化を指摘する。セレブの私生活を赤裸々に映すテレビのリアリティショーの流行、フェイスブックやツイッターでだだ漏れになるセレブのプライヴェート……今まで遠い存在のはずだったセレブ達が、メディアの変化によって近しい存在になり、やがて誰もがセレブが持つ富や名声を簡単に欲望するようになる。「ブリングリング」はその中毒が先鋭化した例であり、彼らはアメリカの病理を映す鏡なのだ。

 さて、エマ・ワトソンはその病理を映画でどう表現しているのであろうか。公開が楽しみである。

 

文=若林踏