落札価格92万円だと? ガンプラを美術品レベルにつくるテクニックを学びたい!

暮らし

公開日:2013/12/15

 先日のこと。「ヤフオク!」でガンプラの完成品が92万円という高額で落札され、話題となった。

 一般的には「本当ですか?」の世界だが、プラモデルの完成品が数十万円で落札されるのは今に始まったことではない。もう何年も前から、プラモの完成品は、ある種の「工芸品」や「芸術作品」のように、愛好家の間で高額取引されているのだ。

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 当然だが、それらの完成品は1点モノで、製作者ごとに、加工方法から塗装まで、それぞれの「作風」がある。自分の好みにハマッた出品者に出会ってしまえば、もうあとは「ボーナス突っ込んでも欲しい」と、追いかけ続けてしまう。そこにライバルが現れれば、あとはもう、血を吐きながら続ける悲しいマラソン……高額は必至。

 それにしても、ガンプラに92万円の価値があるのだろうかと思う人も多いだろう。

 現在、バンダイから発売されている主力シリーズ(MG、HGUC、PGなど)は、説明書通りに組み立てるだけ(素組み)で、テレビで見たあのモビルスーツが手に入る、と言っても過言ではないほど出来がイイ。基本的には塗装の必要もない。

 素組みで完成品を並べるのも悪くない。だが、2次元の映像作品から立体にトランスレートされた場合、そのプラモが必ずしも“オレの見たガンダム”のイメージと一致するとは限らないのだ。

 「この指が角ばってるのが違う」「ガンダムの目はもっと垂れてる」「グフの左手は実は腕が短いんだ」とか、ファンの数だけ違いが存在する。商品に手を加え、理想のモビルスーツを手に入れようとするならば、微に入り細に入り、修正や改造、美しい塗装といった工程を踏まねばならない。

 今回92万円で落札されたガンプラの出品者に限らず、完成品を出品している人たちは、その作業・改造工程や使用したカスタムパーツ、作業時間などを自分のブログやウェブサイトで公開している。そこを見てみると、まあ、気の遠くなるような、職人技が紹介されている。0.1ミリ単位でのパーツの延長や幅増しなどはもちろん、リアル感を出すために、自作したデカールを貼ったり、高価な金属パーツを埋め込んでいたり、実在の自動車などに使われる2液混合のウレタン塗料で塗装して研ぎ出しというツヤ出しまでしていたりする。

 だが、精度の高い工作ができるだけでは、作品の完成度は上がらない。ガンダムなどのアニメ作品には、それぞれの世界観があり、そこに則した設定を元に、デザインや形状、彩色なども、徹底的にこだわらなくては、マニアの心には響かない。飛行機を間近で見れば分かるが、遠くから見れば一色に見える機体には、無数のパネルラインがあり、リベットが打ち込まれ、様々なマーキングが施されている。実際に20メートルのモビルスーツが実在したら、どんな風なパネルラインが入るのか、どこが汚れるのか、など想像を巡らせ、それを反映させるのも、製作者のセンスと腕の見せ所なのである。

 そんな、ガンプラモデラーの想像を形にするマンガ『プラモ男子とプリチー女子』(ゆきもり:原作、ソラキスズ:イラスト/小学館)が、今、モデラーの間で人気だ。

 モテない人生を歩みながらも、ガンプラを作る喜びを大切に生きる主人公・小須賀ミズオ、40歳のバースデーに、突然、20歳の美少女イエナが「婚約者」だと言って押しかけてくるところから物語は始まる。模型に全く興味のないイエナの破天荒さに振り回され、仕事まで失ってしまいながらも、「オリジナルモビルスーツの想像と創造」に浸ることで、ミズオは辛い現実を乗り切って行く。人間ドラマと並行してミズオが想像する「オリジナル・ザク」の物語は、その部分だけでも成立するほどに、味のある設定や人物が登場し、世界観に引き込んでくれる。

 さらに、ミズオは自分だけのザクをプラモデルを改造して作るのだが、「なぜここに溝がひつようなのか?」「このパーツを削る意図は何なのか?」という「改造するための裏付け」が丁寧に描かれている。同時に、その作業を行うためにどんな道具を使うのか、どんな手順を踏めばいいのかといった方法も紹介されており、初心者でも「こういう風にやればいいんだ」と分かる構成になっている。

 想像と創造──まずは模型店でガンプラを手に入れ、組んでみよう。机の上に宇宙世紀の始まりを感じたのなら、あなたの中に眠れる新たな才能が目覚めるかもしれない。ガンプラひとつで92万円を稼ぐのも夢ではない?

文=水陶マコト