何でもアリのゆるキャラ界に警鐘を鳴らす問題作? 猟奇的殺人を繰り返す“殺るキャラ”とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

もはや、何をPRするにも欠かせない存在になったゆるキャラ。そんなゆるキャラブームは未だに衰える気配を見せず、テレビやラジオ出演、書籍にまで活動の幅を広げている。さらに、かわいい仕草や動きとは裏腹にバンジージャンプまでやっちゃうくまモンや激しい動きが特徴のふなっしー、しゃべるゆるキャラのちっちゃいおっさんなど、これまで着ぐるみを着たゆるキャラたちが決してやってこなかったことをやるようになってきている。しかし、それと同時に、“問題ゆるキャラ”もたくさん浮上してきているのだ。たとえば、佐賀県鳥栖市のとっとちゃんはラジオ番組で下ネタ発言を連発し、活動自粛。千葉県銚子市のきゃべっしーもふなっしーのパクリとして苦情が殺到して波紋を広げるなど、なんでもアリになってしまったがゆえの問題も後を絶たない。

そんななか、12月1日に発売された『殺ルキャラ』(川上亮:著、外海良基:イラスト/ティー・オーエンタテインメント)では、動画投稿サイトに連続殺人動画をアップしていくという恐怖のゆるキャラが登場するのだ。そんな“殺ルキャラ”とはどんなものなのだろう?

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この作品で殺ルキャラとして登場するのは、ある地方の公募で選ばれたゆるキャラで、直立した猫にも熊にもパンダにも見える「ペイきち」。驚いたように見開かれた目と肩にかけたショルダーバックが特徴的なペイきちは、全国的にもそれなりの知名度を誇っている。もともとは、彼が「郷土の名所を四十八か所、紹介する」ため、「XX/48」と書かれたスケッチブックを持って街の各所を巡るという動画をアップしていたのだが、その動画を真似した連続殺人犯がペイきちの着ぐるみ姿で次々と殺人を犯していくのだ。

1つ目の殺人動画は、真夜中の河原で撮影されたものだった。それは、デッキチェアに座らせてガムテープで縛った30代の男性の首に鎌を当て、一気に切り裂くという、かなり衝撃的なもの。しかも、市が作成した観光地や郷土紹介の動画を真似て作られており、彼が手にしたスケッチブックにはでかでかと赤い文字で「1/48」と書かれている。

そして、2つ目の殺人はさらに凶悪性を増す。犯人はタクシーに乗り、バックの中からペイきちの着ぐるみを取り出すと、頭だけかぶった状態でロープを持ち、後部座席から運転手の首を思いきり絞める。その後、車内から引きずり出した身体を舗装されたアスファルトの地面に仰向けに横たえ、ビデオカメラをセット。そのまま、タクシーに乗って横たえた運転手の胸の辺りをゆっくりと轢いていくのだ。それだけでは飽きたらず、さらにバックでもう1度踏み潰す。そして、前輪が運転手の身体に乗り上げた状態で停止させ、「2/48」と書かれたスケッチブックを胸の前に構えながらカメラに向かって運転席のドアを開ける。表情は分からないが、誇らしげにスケッチブックを持つ姿を見たら、もうかわいいだけのマスコットキャラとは思えない。

本来、「街を全国にアピールするため」に生みだされたペイきち。たしかに、殺人動画のせいで全国にアピールはできているのだが、ゆるキャラは殺人鬼として、街は「連続殺人鬼がいる街」として不名誉な称号が与えられただけ。もしかしたら、“殺ルキャラ”はなんでもアリになってしまっているゆるキャラ界への警鐘を鳴らしているのかもしれない。

文=小里樹