『ワンピース』はNG! 日本に必要なのはチームワークじゃなくて秘密結社だ

仕事術

公開日:2014/1/5

 バーで隣の男性が話しかけてきた。年齢は27歳。会社や世の中への不満、あとはいかに自分が有能かの自慢話。彼が帰って数秒後、おもむろに50代の常連さんが口を開いた。

「やぁ、こないだ家に帰ったら、彼からフェイスブックの友だち申請が来ていてさ。一言二言話しただけで、今の若者は“友達”なんだね。“友達”の少ない俺には全然分からない感覚」

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 フェイスブックが台頭してこの数年。“友達”という言葉が、元来の意味を失いつつある。実際、フェイスブックの“友達”やツイッターの“フォロワー”の数に一喜一憂している人は若者に限らず少なくない。

 そもそも“友達”って何だろう?

 その漠然とした心の隙間に直接訴えかけてくるタイトルだからだろうか。京都大学客員准教授で、エンジェル投資家の瀧本哲史氏の近著『b<>君に友だちはいらない』(講談社)が売れている。一見、行動心理学系の本と勘違いしそうだがそうではない。同氏は“ブラック企業”という言葉の生みの親で、前著『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)でビジネス書大賞2012を受賞した、イノベーション・マネジメントのプロフェッショナル。グローバル資本主義社会のなかで、世界レベルの競争を生き抜くためには、同じ目標の下で苦楽をともにできる“仲間“は必要でも、ゆるく絡み合うだけの“友達“はいらないというのが持論だ。

 その根拠となっている考え方が、「増え過ぎたものは価値が急激に低下する」という経済学の原則である。人脈はいわば人的資産。「人とあまりにも簡単につながれるようになった結果、近年では一つひとつの価値が低下してしまった。フェイスブックなどで数千人の友達がいるのに、幸せそうに見えない人が多いのはそのためだ」と同氏。なるほど、納得。

 逆に、よい“仲間”、よい“チーム”とはどういうものか? その答えが“秘密結社”だ。瀧本氏は本書のテーマである「仲間づくり」(チームアプローチ)を別な言葉で表現するとき、「今いる場で、秘密結社をつくれ」と言うそう。「さまざまな出身のメンバーが、ひとつの目的の達成を目指して、自発的に集まった集団」―それが“友達”ではなく、“仲間”。企業でいうなら、「社内で部署横断的に集まった秘密結社的チーム」がこれにあたる。

 彼の説く「よいチーム」は、下記5つの共通点がある。

1.少人数である
2.メンバーが互いに補完的なスキルを有する
3.共通の目的とその達成に責任を持つ
4.問題解決のためのアプローチの方法を共有している
5.メンバーの相互責任がある

“七人の侍”や“フリーメイソン”はその典型。「それぞれが他人にない個性と才能を持ち、互いの欠点を補い、自らの意志で主体的に戦いに挑む」ことを実現している。

 逆にダメなチームとして挙げられているのが、なんと『ワンピース』。主人公であるルフィは「仲間になりたい」と言われればどんどん受け入れ、骸骨のような異形の者でも拒まない。また、ルフィたちはけっして仲間割れせず、運命をともにする。そして、どんな目に遭っても絶対に死なない。究極のファンタジーだ。

 でも、これは現実ではありえない。「次の日も、その次の日も、いっしょにいることを疑われない状態に陥った組織は、人員の新陳代謝がなくなり、新しい何かを生み出す活力が失われ、やがて滅びていく」と瀧本氏は厳しい現実を突きつける。

 「そんなはっきり言うなよ!」と思わず足をバタバタさせたくなるが、現実は確かにそう。あえて言うなら、「君に“職場の”友だちはいらない」くらいに留めておいてほしかった。じゃないと、あまりにみじめすぎる。

 ビビッドな表紙デザインから受ける印象とはよい意味でギャップがある。聡明かつ“先見の明”を持った著者による優れたチームアプローチ本だ。とにかく内容が濃くて、読み応えがある。同書で示しているメソッドは、ビジネス以外の分野でも大いに活用できるだろう。

 だからこそ、「で、瀧本氏はプライベートも“ぼっち”なの?」なんて、野暮な疑問は抱いちゃいけないのだ。常に戦闘モードじゃ疲れるし、やっぱり私は友達ほしい…とボヤいているうちは、きっとあなたも私もグローバル資本主義社会で置き去りにされてしまう“仲間ハズレ仲間”だ。さぁ、仲良くしましょ!(←完全にこっちは“友達”)

文=山葵夕子