世界中で人気の“チャック・ノリス・ファクト”の真実

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公開日:2014/1/9

インターネットの普及によって、昔は口伝えで広まった都市伝説も世界中で共有されるようになった。その最たるものこそが“チャック・ノリス・ファクト”だろう。

 ご存じない方も多いかもしれないが、これはアメリカのアクション俳優であるチャック・ノリスが映画やテレビドラマで演じるタフさや屈強さを讃え、2000年代にアメリカを中心にネット上で次々とつくられていった“チャック・ノリス伝説”のこと。いまや100万種類はあるといわれる「チャック・ノリスの真実」は、このようなものだ。

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 「チャック・ノリスの脈拍は、マグニチュードではかる」
 「チャック・ノリスがトレーニングすると、(トレーニング用の)機械が強くなる」
 「チャック・ノリスは自分自身が素手で建てた丸太小屋で生まれた」
 「チャック・ノリスは玉ねぎを泣かせる」
 「チャック・ノリスはスクランブル・エッグを元に戻すことができる」

 ──もはや一人の俳優ではなく、世界中で愛される“ネット上の英雄”となったチャック・ノリス。このチャック・ノリス・ファクトをまとめ、しかもチャック本人がこれらの伝説にコメントを寄せた本が、ついに日本でも発売となった。それが『チャック全開! チャック・ノリス「最強」伝説』(柳 亨英:訳/新潮社)だ。しかし、本書で驚かされるのは、チャック・ノリス・ファクトの多彩さだけでなく、チャックの「マジレス」ぶりなのだ。

 たとえば、「キリンはチャック・ノリスが馬にアッパーを放ったことによって生まれた」という伝説に対しては、「このファクトは笑えるな! 馬や牛と牧場で暮らしている俺にとってはたまらないよ!」とご満悦のチャック。だが、「不要な1セント硬貨を処分するため、チャック・ノリスはそれを伸ばして5ドル札にする」というファクトには、「お金が必要な人や、経済的に困窮している人のために、1セントを5ドルに変えることができるのなら、どれほどいいことか……」と憂い、働く意思をもつことや貯蓄すること、人を助けることを薦めはじめる。

 また、「チャック・ノリスがモノポリーで遊ぶと、世界経済に影響を与える」というファクトには、「現在のアメリカだけでなく、世界的に経済状態が悪いことを面白がる者などいないだろう」と、またしてもマジレス。「就業していない人や家を失った人たちのために、俺と妻のジーナはいつも祈っている」と、貧しい暮らしを余儀なくされている人々の存在にいかに心を痛めているかが伝わってくる。

 さらに、「7日目に神は休まれ……その後、チャック・ノリスが支配した」というチャックの最強ぶりを象徴するファクトには、「いくらなんでも話がでかすぎるぞ!」と苦言を呈し、「神は俺なんかいなくても立派に創造された。もし俺が6日間の創造のあとを継いでいたら、きっと7日目の7分の1でも乗り切ることができなかっただろう」と語気を荒くする。いや、7分の1でも十分すごいが……。

 こうしてみると、チャック・ノリスの素顔は「国を愛し、神を信じる、ひとりの保守派のアメリカ人」であることがよくわかる。自分にまつわるジョークの前でも、どこまでもマジメに、人々の幸福を祈る──もしかするとチャック・ノリス・ファクトが世界中で愛されるようになった裏には、彼の肉体のたくましさだけでなく、本人のこんなマジ感も影響しているのかもしれない。