『進撃の巨人』著者がコメント辞退!? アメコミ最高傑作のスピンオフ作品が話題

マンガ

更新日:2014/1/29

 『バットマン』『スパイダーマン』『X-MEN』など超人気作品を押しのけ、目の肥えたアメコミファンの間で歴代最高傑作と評されている作品が『ウォッチメン』(アラン・ムーア:原作、デイブ・ギボンズ:作画)だ。同作は1986~87年にコミックブック全12巻が刊行されて人気を博し、2009年には映画にもなったので聞いたことがある人も多いだろう。

そして2013年、この『ウォッチメン』に登場する“ヒーローたち”の各々の過去を描いた『ビフォア・ウォッチメン コメディアン/ロールシャッハ』(ブライアン・アザレロ:著、J.G.ジョーンズ、リー・ベルメホ:イラスト、秋友克也、石川裕人:翻/ヴィレッジブックス)の刊行が四半世紀を経てついに始まり、世界中のファンの間で話題を呼んでいる。ご存知ない方のために、まずは原作のストーリーを簡単におさらいしよう。

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 米ソ冷戦のさなか、核戦争の危機が目前に迫る1985年のニューヨーク。政府公認の者以外のヒーロー、自警活動を禁止する“キーン条例”の施行により、引退を余儀なくされたかつてのヒーロー達が平凡な日常を送る中、ひとりの男が殺される。男の名はエドワード・ブレイク。“コメディアン”の名で知られる、数少ない政府公認ヒーローの一人だった。ブレイクの死を知った非合法ヒーロー、ロールシャッハはヒーロー狩りの脅威を嗅ぎつけ、昔のヒーロー仲間に警告し、独自に調査を開始する。ロールシャッハの孤独な捜査はやがて全世界を揺るがす巨大な陰謀の存在を炙り出してゆく――

……と、短い文章ではその魅力を伝えることは難しいが、「ヒーローが実際に存在する世界」で、ヒーローを目指した者達が、どんな思いで、どんな「正義」のために命を懸けているのか、重い宿命が読者の心を揺さぶるのだ。

 そんな中でも、一番の人気を誇るヒーローが「ロールシャッハ」だ。白い覆面をしたヒーローで、その名の通り性格検査の“ロールシャッハテスト”につかわれる「あの模様」が顔面に描かれており、その模様は絶えず変化している。炎を操ったり、ビームを発したりという特殊な能力はないが、人並み外れた身体能力と、「己の正義」を貫く強い意志で、悪に立ち向かう。ヒーロー禁止法が施行された後も、自らの正義に従って、悪と戦い続けるその姿に、読者は惹かれるのだろう。

 また『ウォッチメン』は、大人気のコミック『進撃の巨人』にも大きな影響を与えているという。著者・諫山氏は自身のブログ「現在進行中の黒歴史」の記事で、こう触れている。

「リヴァイのイメージは、映画の『ウォッチメン』のロールシャッハです」

 また、調査兵団13代団長エルヴィン・スミスも、本作のヒーロー「オジマンディアス」をモデルにしていると同ブログで公言している。確かに似ている! 聞いたところでは『ビフォア・ウォッチメン』の日本版の刊行にあたって、このブログを見た出版社から帯のコメントを依頼された諫山氏は「恐れ多くて推薦コメントなんてできません」と言って断ったとか。いかにリスペクトしているかがうかがえるエピソードだ。

 気になる『ビフォア・ウォッチメン』の第1巻では、全ての事件の発端となったコメディアンと、その殺人事件を追うロールシャッハの過去が、二部構成で描かれている。第一部では、良くも悪くもアメリカの象徴であるコメディアンが、ケネディ大統領の暗殺、泥沼のベトナム戦争という過酷な試練を経て、人の道を踏み外して行く悲劇が描かれる。第二部では、女性を殺し、その身体に言葉を刻む連続殺人鬼「詩人」の犯行を追うロールシャッハが、戦いの日々の中で出会った女性に惹かれていくエピソードが、ベトナム後の荒んだニューヨークを背景に描かれる。孤高のヒーローが背負った十字架――「最後に犯したミス」が、胸に迫る。

 本国アメリカではすでに刊行されている『シルクスペクター』『オジマンディアス』『ドクター・マンハッタン』など、続刊にも注目したい。アメコミは左右の開きも違うし、文字も横書きで、日本のマンガに慣れた方には、最初違和感もあるかもしれないが、アメリカの歴史と共に生きるヒーローたちのあり方を、そのダークな世界感と共に、ぜひ味わってもらいたい。ロールシャッハの顔の模様が何を語らんとしているのか? 試されているのは読者だ。

文=水陶マコト