これが女の生きる道! 桜木紫乃×西原理恵子のセキララ対談

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

直木賞受賞作となった『ホテルローヤル』で一躍、ベストセラー作家になった桜木紫乃。妻で、母で、作家で地方出身。桜木との共通項も多く、どこか同じ匂いをもつマンガ家・西原理恵子が『ダ・ヴィンチ』2月号で対面。もともと西原の大ファンだという桜木が、西原の自宅を訪問して自身の作品や家族との関係について語り合っている。

【西原】 今はラブホテルも2時間2000円とか激安合戦で大変みたいですね。

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【桜木】 ラブホテルって立地条件がすべてなんですよ。ローヤルはお墓参りするふりして行ける山の上にあったので、意外と中高年が多かったんです。

【西原】 夫婦かな。浮気かな。

【桜木】 憶測でしかないけど夫婦ものが多かった気がする。家だと気を使うからえげつなく汚していくんですよ。掛布団はぐったら真っ赤とか。

【西原】 そういう日だからホテルでやるんだ。

【桜木】 そう。すみません、こんな話……。

【西原】 とんでもない。楽しいです。つくだにみたいな男女の結果がベッドに残ってる、それを毎回取材できたんだから小説家としてはラッキーでしたよね。

【桜木】 思春期でしたから「ここで何が起こったんだろう」から始まってますしね。刑事の現場検証みたいだねって言われた時は、あ、そうかもしれないって。セーラー服忘れた人もいましたよ。届けるわけにもいかないし、そういういろんな面白いものが落ちてたところでしたね。

【西原】 そうして溜まりに溜まったものがパンパンで、きっとね、まだ吐き出し切れていないんですよ。今は平穏な家庭に恵まれたのに、だから小説に出てくる家庭がみんな、毒々しいこと!

【桜木】 なんでしょうね。こっちの方が自分の中では本当っぽいんですよ。『ラブレス』書いた時も、自分ではいい年のとり方をしてる幸せな人を描いたと思ってたのに <極貧> とか <どん底> ってオビに書かれて、あ、この人を不幸せと思うんだって新たな気づきのあった一冊でしたね。西原さんも『ぼくんち』に描かれた通りですか。

【西原】 あれはみんな、私が子どもの頃に見聞きしたことです。東京の人は驚くけど、大阪の人だと「うちのおやじも野たれ死にしました」って。ただそれを笑い話にするのが高知の人間だとすると、北海道の人は真面目ですよね。ほら、やっぱり寒くて貧乏だと真面目にやらないと死んじゃうから。

【桜木】 零下20度ですからね、ってノセられて何ということを。いや、私の小説って北海道の女性には嫌がられてるんじゃないかって実は疑っているんです。

【西原】 『ホテルローヤル』も地方の女の人の閉塞感っていうのが嫌というほど出てますもんね。私も桜木さんもあのまま地方にいたら、この小説のどれかが自分の人生になってた。

【桜木】 (そっと挙手して)たぶん私は「バブルバス」(桜木の直木賞受賞作『ホテルローヤル』収録の一編)です。

【西原】 (同じく挙手して)私もたぶん「バブルバス」だと思います。「嫌です」って言えなくて舅を同居させちゃうの。それで毎日イライラして、でも夫は一生懸命やってくれてるから何も言えない。全員が善人で、全員が弱虫。だから読むと2年前くらいのゴキブリホイホイ見たみたいに、うわぁ〜って。

【桜木】 アハハ。

【西原】 私が49年かけて必死で逃げてきた現実を突きつけられる感じ。だから全然濡れない。読者も「せっかく目そらして韓流ドラマ見てるのに何してくれるの!」って思ってるはず。

【桜木】 そこですよねえ(苦笑)。

【西原】 いいじゃないですか。昔の間違った文学の定義に囚われなくたって。幸せな家庭でおどろおどろしい小説を書けば。

取材・文=瀧 晴巳/ダ・ヴィンチ』2月号「桜木紫乃という女」特集