芸人・ダイノジ大谷の、熱くてウザい愛と笑いが溢れるロック魂!

芸能

更新日:2014/1/28

 2013年というのは、ある意味で文化の転換点だったように思う。それまでひたすらカッコよく、クールでスマートなものを追い求めてきた社会に、「ダサい」ことと「熱い」ことが強烈なカウンターパンチとして浴びせられることがたびたびあったからだ。それはブームとなったNHKの朝ドラ『あまちゃん』で、主人公のアキが、アイドルになりたいと願った過去を否定する相方・ユイを「ダサいくらい何だよ、我慢しろ!」と叱咤したことや、高視聴率を記録した『半沢直樹』の昭和ドラマのようなどこまでも泥臭い展開と、我慢に我慢を重ねた後に繰り出される熱~い倍返しなどに象徴されている。

 そんな、これまで見て見ぬふりをされ続けた「ダサさ」と「熱さ」をロックを通じて力説するのが、バラエティ番組『アメトーーク』にロック好きな芸人が集まった「GEININ OF HARDROCK」で、AC/DCのアンガス・ヤングのコスプレで登場し、溢れるロック愛を炸裂させていたお笑いコンビ「ダイノジ」の大谷ノブ彦だ。ダイノジというと、相方の大地洋輔による「世界エア・ギター選手権」での優勝(2006~07年連覇)が知られていると思うが、そのエアギターを始めたきっかけは、実は「ダイノジのエアギターじゃない方。エアーのエアー」と自虐的に自己紹介をする大谷にある。

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 2005年に芸人の仕事がなくなったとき、音楽好きであることを知る友人から勧められて大谷がDJを始め、そのDJブースの前で大地が始めたのがエアギターだったのだ。そんな自身の生い立ちやエピソード、AC/DCやエルヴィス・コステロ、ダムドなどロックへの愛を圧倒的な情報量で綴っているのが、音楽雑誌『CROSSBEAT』(現在休刊中)での5年にわたる連載をまとめた『ダイノジ大谷ノブ彦の俺のROCK LIFE!』(シンコーミュージック)だ。

 しかしそこは芸人、一筋縄ではいかない。ヘッドフォンをした大谷がレコードを選ぶ姿が表紙の『俺のROCK LIFE!』だが、本書冒頭の「はじめに」はロックライフではなく、中日ドラゴンズの落合博満監督の話で始めて一瞬読者を突き放してから、ロックへと移行、自分の弱さや思いをさらけ出し、それが煮詰まって、やがて哀しさを含んだ笑いとなっていく。また薄いブルーのオシャレな装丁のクールさを裏切って、内容はとにかく熱い。そして鬱屈していた若い頃の話などは、徹底的にダサくてしょうもない。そこへロックの魅力やアーティストのエピソードをグイグイ押し込んでくる筆致は、異様なまでに暑苦しい。でもそこには「こんなカッコいいロックを聞いて欲しい!」という思いが横溢(おういつ)しまくっているのだ。

 そんな「芸人」であることに矜持を持った本書は、前振りとオチを重視した展開を見せる濃密コラムが49本とインタビュー、そして「俺の10枚」と称して、大谷が愛する10枚のアルバムを選んでいる。そのアルバムもTレックスにAC/DC、ドナルド・フェイゲンといった往年の名盤から、日本のバンドであるユニコーンにレピッシュ、そしてブルース・スプリングスティーンを選んでも『ボーン・イン・ザ・USA』ではなく『明日なき暴走』という渋いチョイスを見せ、2013年にリリースされたダフト・パンクの最新アルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』までをセレクトというかなりの幅広さからも、ロックを、いやすべての音楽を愛する大谷の熱意や、したり顔で音楽を語るヤツには鉄槌を下すぜ! というロックな心意気がビシビシ伝わってくる。そして無性にロックが聞きたくなってくる。

 サマーソニックで毎年DJをし、水曜深夜の『オールナイトニッポン』でもDJを務め、洋楽に触れたことがない層に向けて魅力を熱く語り、曲を流しまくっている大谷。もちろん芸人としても、元旦の『第47回新春! 爆笑ヒットパレード2014』では、猪瀬直樹元東京都知事の5000万円問題を茶化すネタをいきなりブッ込んで相方の大地を焦らせるなど活躍している。危険だ。でもそれがロックだ! とかく熱さを忘れがちな現代人は、必読だぜ!

文=成田全(ナリタタモツ)