寝ないでも全然平気! 「超人」や「天才」のある共通点

科学

更新日:2014/11/17

 会社のデスクにじっとしているのがとにかく苦痛で仕方ない……あぁ、早く帰りたい。

 なのに、世の中とは不思議なもので、中には何時間、何日と集中力が途切れることなく仕事に打ち込める人がいる。エジソンのような発明家しかり。松本清張のような作家しかり。ピカソのような画家しかり。心臓手術に挑む外科医やスポーツ選手、フィギュア作りに没頭するオタクだってそうだ。

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 そんな活力的な彼らと、すぐに“イヤイヤ”病に陥ってしまう自分。その決定的な違いは何なのか。

 そこでおもむろに読み始めた『フロー体験 喜びの現象学』(世界思想社)。文字は小さいし、まわりくどいし、小難しい内容であるにも関わらず、すでに30ヵ国語に翻訳されているロングセラー。というのも、同書の著者で、アメリカの心理学者、M. チクセントミハイ博士が「疲れを感じず、時間の流れを忘れ、黙々と仕事に没頭できる状態」の研究分野において、第一人者であるからだ。

 同書によると“仕事イヤイヤ人間”は、意識の無秩序(心理的エントロピー)に侵されており、意識の統制が図れていない状態なのだそう。現在の意図と葛藤しあう情報、または遂行から自分たちを逸らしてしまう情報(苦痛・恐れ・激怒・不安・嫉妬)により、自身の混乱を招き、効率を害していると指摘する。あぁ、耳が痛い。

 逆に仕事に集中できる人間、目標を達成できる人間は、意識の秩序が保たれており、「流れている(floating)ような」感覚を体験している。スポーツやアート、そのほか趣味や仕事でも、自分にとって楽しいことに夢中になれている時は、時間が経つのを忘れ、周りで起きている事象や音などもまったく気にならなくなる。その間は、適切に行動しているかどうかと疑問を抱くことすらない。これをチクセントミハイ博士は「フロー現象」と定義づけているのだ。

 どうせ同じ時間を過ごすなら、当然楽しく過ごしたいし、フローをできるだけ長く体験していたい。しかし、さまざまな要因で挫折を味わったり、悶々としたりして、“もう限界……やってらんねぇ”と感じてしまう時期というのは誰しもあるもの。そんな時はどう乗り越えれば…?

 本書によると、人生の中心目標を挫折させる大きな破局は2つの結果のどちらかを生むという。残された目標の周囲に防壁をめぐらせるのに心理的エネルギーのすべてを注ぐことを強いられて自己を破滅させるか、または挫折によって生み出される挑戦を克服するために新しい、より明瞭で緊急の目標をもたらすか。フローは決して快楽的な時に起きるのではなく、後者の“挑戦”を経験している時に起きやすい。

 結局のところ、無秩序な事柄をフローに変換するには、可能性を伸ばし、自分を今以上のものに発達させる能力を日々訓練していくしかないようだ。それにはささいな、瞬間ごとの意識を統制するように努めることがまず第一。同時に、全体的な文脈での目標をもつことが必要となる。さらに、その目標は、発見の感覚や、人を新しい現実へと移行させる創造的感情を刺激するものでなければならない。

 やっぱり、そう簡単に“超人”や“天才”にはなれないようだ。そういえば「才能とは、99パーセントの努力と、1パーセントの可能性である」ってエジソンも言っていたなぁ。 “意識の統制”をいちいち意識しなきゃいけない日常を想像しただけで疲れそう。そりゃ、ハードルも高くなるわ。

文=山葵夕子