コミックエッセイプチ大賞受賞作『今日もかるく絶望しています。』が泣けすぎ!

コミックエッセイ

公開日:2014/1/30

 生きづらい。ひとりでいたほうが楽。学校行きたくない。いつだって無気力。何をやりたいのか分からない。皆と一緒がつらい。私だけなんか違う。このままずっと寝ていたい。日々憂鬱。私といても楽しくないはず。小さなことでグチグチ悩んでしまう自分が嫌い。

 こうして全部書き出してみると、確かにスーッとする。わかる。わかるわ。わかるよ、ひな!!

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 第22回コミックエッセイプチ大賞でB賞を受賞した『メンヘラちゃん』をもとに出版された『今日もかるく絶望しています。落ち込みがちガールの日常コミックエッセイ』(KADOKAWA メディアファクトリー)がかなりのツボだ。こじらせ系女子にはたまらない作品に仕上がっている。

 傷つきやすかったり、落ち込みやすかったり、考え過ぎたり……。人よりちょっと生きづらい女子大生・佐藤ひな。初めての一人暮らし、バイト、友だちづくり、恋愛、そして就職活動。なんでもかんでも敏感に反応してしまうメンヘラ気質の彼女は、何をするにも肩の力が入りまくり。挙句、どっと疲れてしまう。自他共に認める「面倒くさい女」だ。

 とはいえ、決して孤立しているわけではない。そんなひなを温かく見守ってくれる幼なじみや、リスカが習慣づいていて、いつも左手に包帯を巻いている妙に気の合うメンヘラ仲間、人とは違う感性をもった彼女にうっかり「面白い!」と恋してしまう“一瞬だけ恋人君”など、人にはそこそこ恵まれている。なのに、ほぼ100%“自分の問題”で、いまいち人生を楽しめていない。登校するのが嫌で頭から布団を被ったままだったり、学校の最寄り駅で降りられず、最終駅まで辿り着いてしまったり……。「これって私か!? 私がモデルか!?」と思わざるを得ない行動の連続なのである。

 ピアカウンセリングほど重々しくもなく、かといって奇をてらって盛っているわけでもない。本当にどこにでもいそうな、でも、本人は自分だけだと思っている“かるく絶望しがちな女の子”の姿を等身大で描いているから、こんなにも共感するのだろう。「メンヘラすぎてウケるから、メンヘラの漫画描けば」という友人の言葉をきっかけにコミックエッセイプチ大賞に応募した著者の伊藤素晴さんのように、そんな痛々しい自分にクスリと笑える要素を見出せたら、一歩前へ進める証だ。

 「学校へ行きたくない」「人と交わるのが苦痛」「自分のことが好きではない」という感情は、なかなかそうではない人間からすると理解しがたいもの。学校が嫌いな人間というのは、総じて会社も嫌いだし、組織や団体行動がそもそも苦手。人が多いところへ行くと体調を崩すという傾向は大人になってもそう簡単に改善できるものではないし、もう、これは一生涯ついてまわる生活習慣病と割り切るしかない。ひなも認めているとおり、「私は一生このまま」なのである。

 世の中が「ちゃんとルールに則って生きられる意識高い系人間」を正とする以上、「どうも外れがちなアウトローの自分」は疑う余地もなく負であり、確かに生きづらい。けれど、考え方によっては同じような人間の痛みや傷をいち早く察することができるという側面もあるのだ。

 後半描かれている登校拒否児の姪とひなの交流は圧巻だ。「皆と違う自分が嫌」「皆と同じ普通になりたい」と涙を流す姪に対し、“人と違う自分”を受け入れることができず「皆と同じ」を無理して追っている自らの境遇と重ね合わせながら、ひなが発する言葉がふたりを思わぬ方向へと向かわせる。

 心のキャパは常にいっぱいいっぱい。でも、どうにか前へ進みたいと願っている。そんな憂鬱な朝にぜひ読んでもらいたい作品だ。

文=山葵夕子