家族の前でもスッピンは御法度!? 現代に残る“貴族”の暮らし

暮らし

更新日:2014/2/13

 所得に格差はあれど、身分に格差はない現代の日本。お姫さまなど、マンガや小説、映画の世界にしか存在しない。でも、ほんのひと昔、戦前の日本には 「華族」という貴族階級が存在した。江戸時代の公家や大名、明治維新の功労者の流れをくむ家で、「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」の5階に分かれ、日本の政界・財界を牛耳っていたのだ。

 華族制度が廃止された今も、「若さま」「おひいさま(お姫さま)」などと呼ばれていた肉親のことを記憶し、また彼らと同じ、もしくはそれに準じた暮らしを送ってきた人がいる。ごくごくフツーの家庭で育った私には、物語にしかないような彼らの暮らしに好奇心がそそられる。いったいどんな生活なのだろうか?

advertisement

 それを教えてくれるのが、小笠原流礼法の普及に努める小笠原敬承斎氏の『伯爵家のしきたり』(幻冬舎)。小笠原氏とは、清和源氏の流れをくむ一族。源平合戦から戊辰戦争まで武家として生き抜いた数少ない家系であり、その間、弓術馬術から武家礼法まで、武芸の家元を通してきた武家の名門だ。

 こんな大層な一族に生まれた小笠原敬承斎氏は、幼い頃から家に代々伝わる教えを受けてきた。例えば、食事をするとき、箸の汚れは3センチ以内に止めるのだという。それ以上汚れると、人に不快感を与えかねないそうだ。昔は、小笠原家に勤める女中たちが、おもしろ半分で、客が使用した箸を火鉢の灰に入れて、箸の先にどの程度の灰がつくかを計ったそうだ(敬承斎氏は、そのはしたなさには苦言を呈している)。いつも「おなかすいたー」と言いつつガツガツ食べる私の箸は、笑いものにされること請け合いだ。

 また、お気に入りの靴なら多少色がハゲでも、多少かかとがつぶれても、多少ファスナーが壊れても履き続ける私。もちろん、小笠原伯爵家は違う。

「無理をして高価な靴を一足購入し、そればかりを履いてしまったら靴はくたびれてしまう。また毎日の靴のお手入れも欠かしてはならない。素敵な装いは、足元にまでこころを配って完成される」

 このように祖母に教えられた敬承斎氏。その通りに中高生の頃は、お気に入りの同じ黒の皮靴を常に2足購入してもらい、それぞれ1日おきに履いては帰宅後に靴の手入れをしていたそうだ。なるほど、好きな靴をいつまでもキレイに履き続けるこの方法、(お金に余裕があるとき)ぜひ試してみたいと思う。

 だが、小笠原流の伝書にあるという次の一節は、できないことではないが、なかなかハードルが高いかもしれない。

「今朝に及びたらんにかならずしもその姿にて 君主父母に対面あるまじきことなり」

 家族間であろうとも、パジャマのままで顔も洗わず、髪もとかさずに人に会うことはあってはならないという教えだそうだ。さらに、化粧をして身支度を整えてから対面するようにとも続けて記されているという。この教えから、敬承斎氏の曽祖母は、毎朝の家族との対面時にも化粧を欠かすことはなかったらしい。敬承斎氏自身も、20歳になったときに母親から、人前に出るときは必ず化粧をして身だしなみを整えること、それは近所に買い物に出かけるときも忘れてはならないと教えられたという。

 敬承斎氏自身、小学生の頃に祖母から小笠原家にまつわる教えを聞くたびに、「時代錯誤なこと」という反抗心が先にたって、素直には聞けなかったそうだ。けれど、この教えには「相手を大切に思うこころ」が受け継がれているという。自己を慎み、他者を思いやることが、円滑な人間関係にもつながるというわけだ。

 職場を離れれば、のんびり怠惰に過ごしてしまいがちな毎日。どこにいようとも、常に己を律して行動することが、現代に残る“貴族”の姿なのかも。

文=佐藤来未(Office Ti+)