官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第36回】乃村寧音『楽園ヒーリング』
更新日:2014/3/5
乃村寧音『楽園ヒーリング』
結婚目前にして振られてしまった七香は、マンションを買って一人暮らしを満喫しながら、もう恋愛はしなくていいや、と過ごしていた。だが、一緒に旅行に行くはずだった友人が突然キャンセル、代わりに来たのは年下のさわやかな好青年。最初は反発を覚える七香だったが──。第1回フルール新人賞ルージュ部門で佳作を受賞した作者による、カラダと心を癒す夏色ロマンス♪
朝、空港にやってきたのは、かなりの美男子だった。切れ長だけど甘い瞳、通った鼻筋、細い顎。唇は少し厚くて男らしい。それでいて表情がとても柔和なところが、確かに「病棟のアイドル」と言われるのにふさわしい容貌に思えた。
ほっそりしていて一見華奢なのに、Tシャツから出ている腕には程よく筋肉がついていて、けして弱々しくはない。身長は百七十五センチくらいだろうか。バランスのいい体形で、足が長い。
(だけど、かっこいいからって、なんだっていうのよ。ふん)
元気のないわたしは、ついつい心の中で悪態のひとつもつきたくなってしまった。
彼は明るく話しかけてきた。
「はじめまして。小松(こまつ)七香さんですか? 俺、須藤真(すどうまこと)って言います。花梨先生の代わりに来ました。七香さんって花梨先生の同級生なんですってね。きれいな人で良かった! 俺、彼女と別れたばかりなんですよ。どうぞよろしくお願いします」
なんて返せばいいのかわからなかった。若い男の子と旅行ができてうれしいですとか言えばいいのか。でもそんな気分じゃない。それでも仕方なく、表面ではにこやかに返事をした。
「あの……。わたしのことならどうかお気になさらずに。行きと帰りは飛行機で一緒になるかもしれないですけど、それだけですから。あちらでは、別々に過ごしましょう」
わたしはそう伝えると、あとは話しかけられてもほとんど返事らしい返事もせずに、飛行機に乗った直後から狸寝入りをし続けた。
2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊
一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。