旅立つ少女にラノベを贈ろう ―ブンガク!【第21回】―
公開日:2014/2/28
★バックナンバーはこちら!★
★ブンガク部の部員名簿はこちら!★
~ブンガク部 部室~
「では、みなさん。また、日本に来たときはよろしくお願いします」
「うん、またね。唯ちゃん、あっちでも元気でね」
「いろいろ助けてもらってありがとう。あっちでも頑張ってね!」
「またね!たまには日本にも遊びに来てよ」
「じゃあな、唯ちゃん。またラノベの話でもしようぜ」
「みなさん……ありがとうございます」
「唯ちゃん、これ最後にみんなから寄書きと贈り物だよ」
「……え!?」
「はい、これ、みんなで選んだんだ。海外だとなかなか手に入らないと思ってね。たまにはこの本を読んで私たちのこと、思い出してね」
「……『さくら荘のペットな彼女』!! これ読んでみたかったんです。みなさん、ありがとうございます」
俺の住む寮『さくら荘』は、学園の変人たちの集まり。そんな寮に転校早々入ってきた椎名ましろは、可愛くて清楚で、しかも世界的に有名な天才画家だという。天才美少女を寮の変人たちから守らねば!と意気込む俺だったが、入寮翌日恐るべき事実が発覚する。ましろは、外に出れば必ず道に迷い、部屋はめちゃくちゃ、ぱんつすら自分で選べないし、穿けない、生活破綻少女だったのだ!
「そういえばさ、唯ちゃん、今日はこのあとどうするの?」
「はい、今日はこのあと直斗君とライトノベルコンテストに出した作品の結果発表を会場に見にいって、それから、空港に向かおうと思います」
「そっか、じゃあ、道中、気をつけてね。迎えはいつくらいに来るの?」
「はい、タクシーで行こうと思って……ん?」
「……いや、道路が雪で凍りついてここまで来るのに時間かかっちゃったよ。にしても今日は車がよくスリップしたね、あははは……」
「……う、気持ち悪い、よ、酔った……」
「先生、それに直斗君も!?」
「やあ、おはよう、みんな!」
「直斗君、先生、どうしたんですか!?」
「……やあ、唯ちゃん」
「コンテストに行くんだろ、今日は送っていくよ」
「はい!? でも、いいんですか? 確か直斗君と先生は学校のほうが……」
「良いよ、てか今日は僕、たまたま休みだし、まあ直斗君はちょっとズル休みかな。まあ、直斗君も発表を唯ちゃんと見に行きたいだろうから、今回は特別にね」
「先生、しーッ! そういうことは内緒ですから!」
「あははは、そうだった、そうだった。まあ、それにさ、今日の発表は君と直斗君にとって特別な日だ、もちろん僕にとってもね。……だからさ、ぜひ僕にも手伝わせてくれないかい」
「先生……」
「先生もこう言ってくれていることだしさ。唯ちゃん、行こう!」
「……もう、仕方ないですね。直斗君は……」
「うん」
「……んじゃ、行こうか。それじゃあ、目指すはコンテスト会場、いざ出陣!」
「先生、戦国武将じゃないんですから……」
「……いざ出陣!」
「え~と、もうそれでいいです、あはは……」
「それじゃ、みなさん、ありがとうございました」
「唯ちゃん、またね。ありがとう~!」
「二人とも気をつけてね~!」
「じゃあね、また、きてね~!」
「あっちでも元気でな~!」
~それから~
「あれれ!? 会場までの道、込んでいるな。コレじゃあ、進めないよ」
「え、そんな……!?」
「先生、どうしましょう」
「……う~ん、このままじゃ、会場に着くのが遅れちゃいそうだな。そうだ、二人ともここは車を降りて歩いて会場に向かいなさい。多分そっちのほうが早いと思う」
「で、でも!?」
「それじゃあ、先生が」
「僕のことはいいから、これは君たちのコンテストだ。君たちが見てくるべきだよ。僕は後日にでもネットでも何でも使えば発表の内容くらいは確認できる」
「……分かりました。唯ちゃん、先生の言うとおりのまま会場に向かおう」
「はい。……先生、ありがとうございます」
「うん、僕も様子を見てわき道でも見つけて駐車して君たちを追いかけるから、行っておいで!」
「はい!」
~会場へ~
「唯ちゃん、早く会場もう人が集まってるよ」
「あ、はい」
「うわ、すごい人だかりになっているね」
「こんなにもコンテストに参加していた人がいたんですね」
「ねえ、唯ちゃん、あそこに結果が張り出されているよ」
「えーと、まずは最優秀賞の作品からですね」
「……う~ん、さすがに最優秀賞には僕らの名前は載っていないみたいだね」
「そうですね。さすがに初参加で最優秀賞は難しいですよ。では次の賞を見てみましょう」
「うん」
「優秀賞の方はどうでしょう……」
「……う~ん、優秀賞にも僕らの名前はないね」
「……そんな……」
「だ、大丈夫だって、まだ佳作の賞が残っているじゃないか、諦めるにはまだ早いよ」
「……そ、そうですよね」
「じゃあ、次も見に行こう」
「はい」
「えーと、佳作、佳作は……あ、あった、あそこだ」
「えーと、私たちの作品は……その、載ってないですね……」
「……唯ちゃん?」
「……あ、そんな悲しそうな顔しないでください直斗君、別にいいんですよ」
「で、でも……」
「私は大丈夫です。私はこのコンテストに参加できただけでも満足ですから……。さあ、行きましょう、先生が待っています」
「うん……あれ? もう一枚何か張り出されてるみたいだ、なんだろう?」
「……ん? 直斗君、どうしたんですか?」
「……あ、あ、アレ見てよ、唯ちゃん!?」
「え? あ、あれは……佳作特別賞!?」
「ぼ、僕らの名前、もしかしたらあそこにあるんじゃない!?」
「あ、はい……えーと、あ……」
「ど、どう、唯ちゃん、僕たちの名前あった!?」
「あ……あります。私たちの名前、載っています……」
「……き」
「き?」
「キターッ!! や、やったよ、唯ちゃん! 僕たちの名前あった、あったんだよ!!」
「ふふ、はい……私、今すごく嬉しくて、なんか上手く言葉が出ません……」
「良いよ、今は言葉が出なくても、ただ素直に今を喜べればそれでさ! あはは……」
「はい!」
~それから 彼らは空港へ~
「直斗君、ありがとうございました。あなたのおかげで後悔せず帰ることができます」
「うんん、僕もやる事をやるだけやってやりきることができたし、お礼を言うのは僕のほうだよ。ありがとうね」
「もう、そんなことを言ったら私のほうが直斗君にお礼を言いきれないじゃないですか」
「あはは、ごめん……」
「ふふっ! それじゃあ、もうすぐフライトの時間なので行きますね」
「あ、うん。じゃあ、またね」
「……あ、そうだ、直斗君」
「はい?」
「これをどうぞ……」
「これは『告白予行練習』?」
ニコニコ動画で絶大な人気を誇る、青春系胸キュンロックの名手・HoneyWorksの代表曲「告白予行練習」の小説版。桜丘高校3年の夏樹は、幼なじみで映研所属の優に片思い中。けれど、素直になれず、優を告白の“練習”相手だと言ってしまう。ホントの気持ちをごまかすうちに、同じ美術部所属の美桜、あかり達と想いがこじれて!?“本番”をむかえることなんて、できるの!?
「そのなんていうか、直斗君にいろいろ助けていただいたので直斗君に私からコンテストの記念としてこれを贈らせてください。私のお気に入りのライトノベルです。読んでみてください」
「あ、ありがとう……それなら僕も唯ちゃんに記念として一冊、はい」
「これは『“文学少女”と死にたがりの道化』ですか?」
『“文学少女”と死にたがりの道化』(野村美月/ファミ通文庫)
物語を食べちゃうくらい深く愛している文芸部部長、自称“文学少女”こと天野遠子と、平穏と平凡を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。ある日、何故か文芸部に「どうかあたしの恋を叶えてください!」という恋の相談が持ち込まれた。それは、単なる恋文の代筆のはずだったが思わぬ事件へと繋がっていた。それは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった
「うん、僕のお気に入りのライトノベルだから是非、読んでみてね」
「……ありがとう、直斗君、大切に読みますね」
「うん、それと唯ちゃんもあっちに行っても元気でね」
「はい、直斗君の方もお元気で……」
「うん。……だから、また日本に来てね。みんな唯ちゃんのこと、待っているからさ」
「……そんなの絶対に来るに決まっているじゃないですか! ではまたそのときまで、さようなら……」
「うん、またね、唯ちゃん。そのときまで、さようなら……ありがとう!」
……つづく
次回予告
「こんにちは中島優斗です!」
「同じくこんにちは中島直斗です!」
「どうだ、直斗、お姫様は無事に送り届けてやれたかい?」
「兄さん、今日は妙にカッコつけたことをいうんだね」
「いいだろ、たまには僕だってカッコつけてもさ」
「ま、たまにはね。では……」
「次回の『ブンガク!』もお楽しみに!」