『あさりちゃん』100巻完結記念! 室山まゆみ先生インタビュー「震災のときにはファンに安否確認のハガキを送った」読者とのつながり

マンガ

更新日:2014/2/28

1巻と100巻のイラストを比較! あさりちゃんがシャープに、より可愛く変化しているのがわかる

 

  2月28日、ご長寿児童マンガ『あさりちゃん』(室山まゆみ/小学館)の100巻が刊行される。同作は、主人公のあさり、姉のタタミ、母のさんご、父の鰯で構成される浜野家を中心に繰り広げられるギャグマンガ。あさりの同級生のいばらちゃん(いじわるなお嬢様)や速井太郎(足が速いあさりのライバル)、犬のうにょなどの脇役キャラを覚えている読者も多いだろう。

 1978年7月に雑誌『小学二年生』(小学館)で連載が開始。一時期は『小学二年生』から『小学六年生』までの学年誌と、『コロコロコミック』『ぴょんぴょん』『ちゃお』など、月に6媒体(!)で連載されていたこともある。82年にはアニメ化し、86年には第31回小学館漫画賞を児童部門で、14年には第59回同賞審査員特別賞を受賞。単行本は、累計約2800万部を発行している。

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 そして、記念すべき100巻目は、なんと35年間という長い歴史に幕を下ろす最終巻。その35年間を、作者の室山まゆみ先生と振り返った。まず、なぜ100巻で完結を?

「あさりは、かわいいわが子同然の存在ですからね。この先に何巻まで続けられるかを考えたら、中途半端な巻数で自然消滅的に終わるのは嫌だな、と。区切りのいいところで終わってあげたいし、その方がかっこいいじゃない? 読者の方も覚えていてくれるかな、と思うし」

 学年誌の休刊が続き、発表媒体がなくなっていったのも理由のひとつだそう。「単行本丸々1冊分を書き下ろす根性が、私たちにはないのよねぇ~」と笑いあう。“私たち”とは、姉の眞弓さんと妹の眞里子さん。2人は2歳違いの姉妹で、“室山まゆみ”は合同ペンネームなのだ。合作を始めたのは眞弓さんが高校生、眞里子さんが中学生のころ。

「お互い、別々に投稿をしていたら、2人に返ってくる評価の長所が微妙にズレていることに気付いたのよ。同じ16ページの作品を描くのでも時間の短縮になるし、少しでも評価が上がるんじゃないかと思って。それで賞金というのが手に入ったら、これは、めでたいってね」

 現在、合作のスタイルはより“効率化”され、(1)眞里子さんが下絵を描く→(2)眞弓さんが主線を描く→(3)眞里子さんが背景を描く→(4)眞弓さんが消しゴムをかけてベタ、ホワイトを塗る→(5)2人でスクリーントーンを貼って仕上げる…と、さながら家庭内手工業のよう。アシスタントを雇った期間は短かったという。

 今回、連載終了のニュースが流れた際には、ネットで「懐かしい、40巻まで持っていた」「まだ続いてたのか」「ずっと続くと思っていたのに」など、さまざまな声が聞かれた本作。全100巻という児童マンガには、どんな読者がいるのだろう? 

「学年誌に連載しているので、読者の出入りは頻繁にあります。それでも、単行本を買い続けてくれる人もいるし、“集めていたけど受験のとき、親に捨てられた”という人も多いわね。中には、“嫌いになった”と言う人も。でも、マンガって一度、嫌いにならないといけないのよ。特に『あさりちゃん』のように幼い自分自身とひもづいたものは、卒業しないと大人になれないから」

 そのため、「嫌いになりました」という手紙が来ると「この子は今、うちのマンガを嫌いになる時期にあるんだな」と考えるのだとか。理想形は、子どもができてから、また戻ってくること(いわく“鮭の遡上”)。自己の投影先だった主人公が、やがて別のものとして立ち現れる―これは、児童マンガならではの現象だろう。では、印象的だった読者とは?

「不登校の子ですね。けっこう手紙が来るのよ。“小学2年生から不登校で、中学校も行っていないのに卒業証書があるんです”“私には学校の友達はいません。友達は、あさりちゃんだけです”…。中には、“高校まで不登校だったけれど、大検を取って大学だけ行くことにしました”とかね」

 両親を事故で亡くしてしまったという少女もいた。「『あさりちゃん』を持って、おじいちゃんとおばあちゃんのいえに行きます、って書いてありましたね。こういう子の手紙は残しておいて、何年か後に返事が来ないか待つんです。くる子もいれば来ない子もいるんだけどね。“元気です”って知らせがあったら、とってもうれしい」

 1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災の際には、ファンレターをひっくり返し、被災地域に住んでいると思われる住所に安否確認のハガキを送った。結果、全員から返事が来たという。

「自分勝手かもしれないけれど、うちの読者は大丈夫だった、と胸をなでおろしましたね。うれしかったわよね」と話す2人。その目は、まさに“わが子”たるあさりちゃんの大切な友人たちをいつくしむようだった。友人たちの心で、あさりちゃんは今日も元気に生き続けるのだ。

文=有馬ゆえ