英語を学べば、日本語の勉強にもなる? みちこさんのじっくり英語レッスン

暮らし

公開日:2014/2/28

 英語は苦手だ。おかげさまで受験はなんとかおわったけれど、それはいわれるままに英文法を習得しただけ。当然話すことなんてできない。名詞につけるという“a”と“the”の違いもわかったようでわからず、なんとなく通じるのでは? などと思っている。

 こんななんとなく覚えた英語について、疑問を流してしまうことなくとことん突き詰めることを試みたのが、『みちこさん英語をやりなおす』(益田ミリ/ミシマ社)。主人公の主婦・みちこさんが、英会話を学ぶべく家庭教師を雇う。40歳のみちこさんは、「簡単だから大丈夫ですね?」という先生の言葉に、「簡単かどうかは先生じゃなくて、わたしが決めることだと思います」と答える。それから怒涛の質問攻撃が始まる。

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 例えば、“I like chocolate.”というフレーズについて、
「“わたし 好き チョコレート”。こんなおかしな順番にせず、“I chocolate like.”ってすればいいのにってずっと思ってました」
とみちこさんは告白する。

「英語はとにかく、なにがどんなことをするか真っ先に伝えようとしてるんです」
アメリカに留学をしていたという先生はこう答える。

「結論を急ぐ理由があるんですか?」

「急いでいるというより、“英語”はそのほうが親切だと考えているんじゃないですかね?」

「じゃあ、逆になんで日本語は重要なことから伝えないんでしょう?」

 先生とみちこさんの繰り返されるやりとりで、「日本語はどういう空気の中で話を聞いてほしいかを選べる言語」という結論に達する。「今日わたしは、金色の車を見た」といえば、今日の話をしたいということになるし、「金色の車を、今日わたしは見た」といえば、真っ先に金色の車を頭に浮かべてほしいということになる。

 また、みちこさんは、なぜいちいち名詞に“a”や“the”をつけるのかを疑問に思う。日本語なら「水をください」ですむところを、英語では“I want a glass of water.(私はグラス一杯の水がほしい)”といわなければ通じない。こうしたことで、英語がモノの数に敏感なことに気づく。そしてさらに、自分の娘が小さいときには、英語寄りの日本語を話していたと話す。単に「ボールを持ってきて」というのではなく、「ボールをひとつ持ってきて」といっていたという。日本語はその数をニュアンスで伝えてしまうけれど、幼い子には伝わらないかもしれないというわけだ。英語を理解するということは、日本語がどういうものなのかを改めて考える機会になるようだ。

 結局、みちこさんは英語の初歩の初歩の部分で引っかかりすぎて、疑問文や否定文、過去形にも進まず、先生の仕事の都合で家庭教師はおわってしまう。けれども、英語は英語なりの理由があって成立していることを確認できたみちこさんは、英語の勉強におおきな充実感を得て、これからも少しずつ続けていくことを決意する。

 苦手意識が消えなかった英語。英会話を習ったこともあったが、結局続かなかった。英語をペラペラと話せることに憧れたけれど、果たせぬまま。それは、わかったつもりで本当は理解していないから、つまらないと思いながら勉強していたことが原因ではないかと思う。大人だからこそ、見栄をはらずに疑問を全部吐き出して、ゆっくりのんびり勉強してみるのもいいかもしれない。

文=佐藤来未(Office Ti+)