新型うつの原因は、人生を楽しんでいない親にある!? 親の人生と子どものメンタル不調の関係

出産・子育て

公開日:2014/3/1

 発達心理学にもとづけば、子どもの性質は少なからず、幼少時代の親子関係に影響を受けるという。

 しかし、人は思春期に恋愛を経験することで自我が芽生えたり、青年期に自己の存在意義について見つめ直したりすることで、揺るぎない自分を確立し、それが自己のアイデンティティの獲得につながって、成人期に移行するものだとされている。だが、昨今の若者は恋愛が面倒だったり、親と共依存にあったりするケースも少なくない。そういった発達過程における課題がクリアできない場合は、いったいどのようなことになってしまうのか。

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 『間違いだらけの子育て わが子を新型うつにしないために』(ビジネス社)の著者・見波利幸氏は、組織のメンタルヘルスの草分け的存在だ。カウンセリングや職場復帰支援など、現場での豊富な経験から、メンタルヘルス不調が生じる若い社会人たちに、次の5つの特徴があることを実感しているという。

1)児童期や思春期に不調になった経験をもつ人が多い 
2)親の愛情をそれほど強く感じていない 
3)親が人生を謳歌していない 
4)これからの人生や将来に対して期待が大きくない 
5)ストレス耐性が低い

 これらの共通因子からは、不安傾向や回避行動をもつ性格傾向が推測される。自己を確立し、人生を肯定的に乗り越えていく姿を想像するのは困難になるのだ。

 では、どうすればいいか。それらに対して最も深くアプローチできるのはやはり、親なのである。著者によれば、幼児期のメンタル不調や不登校、社会人になってからの出社拒否やいわゆる「新型うつ」状態は、子どもに対する親の関わり方次第で防げるのだという。逆に、親の関わり方がその原因をつくっているともいえるのだ。

1)児童期や思春期に不調になった経験をもつ人が多い
 1については、精神的な不調から不登校になっていた時期が若干でもあったり、親に厳しくしつけられたことで、対人不安を抱いている可能性が考えられる。その時点で親が不調のサインや原因を見逃し、効果的なアプローチをとらなければ、なんとか社会人にこぎつけたとしても、いざ会社に入ってリアリティ・ショックを受ければ、たまらず不調をきたしてしまうのだ。

 子どもは大人と違って、言葉で自分の気持ちを明確に伝えることができない。そのため、メンタル不調のサインは行動や体調に出ることが大半である。ゆえに、小さなお子さんをおもちの方は、まず「子どもの今の不調を見逃さない」こと。

 朝起きづらかったり、学校に行きたがらない。または腹痛や頭痛を訴えてくるなど、「行動的な変化」と「身体的な変化」をキャッチしたら、すかさず子どもの「気持ちの変化」を丁寧にみていくことが大切だ。いったい、どのような出来事が子どもの今の状態につながっているのかに思いを馳せ、わが子と寄り添うようにして、じっくり話を聴いていく。その際、いじめのサインは見逃してはいけない重要ポイント。その上で、ストレスによる不定愁訴(=漠然とした体の不調)なのか、それとも病気によるものなのかを慎重に見極めて、その必要があると感じられたら、メンタルの専門家に相談しよう。

2)親の愛情をそれほど強く感じていない
 2については、将来、メンタル不調をきたさないために重要なことがらである。イギリスの小児科医ボウルビィによれば、幼い頃に親とどのような“愛着関係”を築けたかが、その後の対人関係の基礎となるという。「自分は親から愛されていない」と感じて育つと、パーソナリティに偏りが生じ、人間関係をうまく構築することが困難になるのだ。見波氏は、わが子に「かけがえのないいちばん大切な存在である」ことを伝え続けることを重視し、それが人生への肯定的な見方にまで影響するとしている。

3)親が人生を謳歌していない
 さらに3は、心理学における社会的学習理論ともつながる話だ。子どもは大人の行動を観察し、自発的に模倣する特性をもっている。著者によれば、メンタル不調になった若い社員の親が、人生を謳歌しているケースにあまり出会ったことがないという。人生を肯定的に捉えられない親の子どもが人生を前向きに捉えられず、期待がもてないのは自然ななりゆきではないだろうか。

 本書は後半部分で具体的な対策として、ステップを踏んで将来のビジョンを考える方法や、ストレスに対する効果的な対処法を紹介している。このあたりは、職場のメンタルヘルス教育に携る著者ならではの、実用的かつ具体的な枠組みが参考になる。

 果たして親の育て方だけが、子どものメンタル不調の原因になるのだろうか、と、懐疑的な方もいるかもしれない。しかし哲学者のジョン・ロックの「タブラ・ラサ」という有名な言葉がある。人は生まれたときは白紙であり、人のすべての知識は、我々の経験に由来するというものだ。あなたはいわば、白紙状態である自分の子どもが最初に接するお手本だ。まずは、目の前の自分の子どもと、きちんと向き合えているかを、見直そう。

文=タニハタマユミ