『テラスハウス』効果だけじゃない? 若者がシェアハウスを選ぶ理由

生活

公開日:2014/3/8

 あまり一般的ではなかった「シェアハウス」という言葉が近年オシャレの代名詞へと生まれ変わった。シェアハウスで同居する男女6人に密着した大人気TV番組『TERRACE HOUSE (テラスハウス)』(フジテレビ系)の影響もあるのだろうか、多くの若者が進んでシェアハウスに住むことを選択している。一体シェアハウスの何が多くの若者を惹き付けるのだろうか。

 2009年に執筆された久保田裕之氏の著書『他人と暮らす若者たち』(集英社)では、シェアハウスがまだ一般的でないことに触れており、その原因として、日本が世界でも珍しいワンルーム大国で、日本人の国民性から考えて他人と住むことはできれば避けたいと考えていることを指摘していた。だが、2012年出版の『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』(阿部珠恵、茂原奈央美/辰巳出版)では、この状況が年々変化してきたことに触れている。シェアハウスには、個人的にルームメイトを決めて部屋を借りるケースと、建物全体がシェアハウスとなっており、個人のスペースが確保された上で、豪華な共用スペースがあるケースがある。2000年に雑誌『cookie』(集英社)で連載が開始した矢沢あい著の漫画『NANA』やドラマ『ラスト・フレンズ』(フジテレビ、2008年) 、『私が恋愛できない理由』(フジテレビ、2011年)や、映画『シェアハウス』(ピーズ・インターナショナル、2011年)などの作品で、主人公がシェアハウスという環境で他人と関わり悩みをぶつけ合いながら成長する姿が描かれることでシェアハウス自体へのポジティブなイメージが形成されてきたようだ。

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 一方で、貸主側でもシェアハウスへの意識が変化してきた。数年前までは若い人同士が集まって住むとなると、部屋をキレイに使ってもらえるか不安に思う大家が多かった。だが、現在では、多くの事業者が「シェアハウス専用物件」を開発するようになってきた。その背景には、不動産業界で賃貸住宅が余ってしまっている実状があると阿部氏は指摘する。リーマンショック後に余ってしまった物件に客を集めるために、個々の部屋の他に特色ある共用スペースを作ったのが、現在のシェアハウスなのだ。

 シェアハウスの大半は純粋に生活するために集まったものだが、住人が住むにあたっての「共通の目的」を決めている家もある。プログラマーが集まり、プログラミング技術を学び高め合うことを目的に作られた家や、豪華キッチンをメインとした料理好きが集まるもの、農業をするために集まったものなど、住むこと以外の共通の目的を持って人が集まる事例も近年では増加傾向にあるようだ。このような環境が、もともと知り合い同士が集まるシェアハウスだけではなく、知らない人同士が集まって暮らすシェアハウスを増加させている。

 「英語を学ぶため、留学生の多いシェアハウスに住むことにした」。そう語るのは、実際に都内のシェアハウスで暮らす大学生Aさんだ。Aさんの暮らすシェアハウスは、事業体がシェア専用物件を仲介したもので、知らない人同士が集まる形態だ。「一人暮らしでは絶対に持てない大型キッチンやシアタールームなどの共用スペースを借りられるからシェアハウスはお得感がある」と彼はいう。「他の住人とワイワイ過ごすことができる環境で楽しい。月に1回は共用スペースに集まってパーティをしているし、シェアハウス内でのカップルも少なくはない」と聞くと、シェアハウスでの暮らしは楽しいことばかりのように思える。だが、他人と暮らす最低限度のルールはあるようで、掃除は週当番制、共用スペースに起きっぱなしにしたものの紛失は自己責任だ。DVDが紛失してしまったり、せっかく買っておいたプリンが勝手に食べられてしまったりする。だが、それも含めて、シェアハウスでの暮らしは「共用スペースに行けば、必ず誰かがいる。毎日帰ってきて話す相手がいることで明るい生活ができる」という。

 現代は、FacebookなどのSNSやLINEなどすでに友達とつながるには充分過ぎる時代である。だが、直接的に関わる人という視点で見ると、20~30代のリアルな「人とのつながり」は縮小する一方だ。この孤独を受け止める場所としてシェアハウスは効力を発揮するのだろう。マンションに帰り我が家を見上げると電気がついている部屋が見え、ドアをあければ下らない話ができる住人が「おかえり」と出迎える。「共通の目的」があれば、シェアハウス内の友人と共通の趣味を楽しんだり、夢を語り合うことすらできる。かつては日本では受け入れづらいといわれていたシェアハウスだが、現代、シェアハウスは新しい、人と人とのつながりを生み出すメディアとして機能しているようだ。

文=アサトーミナミ