映画オタク・中川翔子の姿 ―ブルース・リーに傾倒し、吉永小百合から手紙が届く

芸能

公開日:2014/3/16

 日本で一番、マルチなオタクぶりを発揮しているタレントと言えば、“しょこたん”こと中川翔子をおいて他にはいないだろう。

 マンガ、アニメは言うに及ばず、世界コスプレ親善大使を務めるほどのコスプレ好きで、古い特撮もチェックし、80年代アイドルソングに詳しく、レトロゲームもやりこなし…とこれ以上はキリがないので止めときます。とにかく趣味人としての守備範囲の広さは、もう半端がないのである。

advertisement

 1月に刊行された『しょこたんの秘宝遊戯 映画貪欲大全』(洋泉社)は中川翔子が持つ顔のひとつ、映画好きとしての一面を凝縮した本だ。

 本書は雑誌『映画秘宝』(洋泉社)に2006年より連載されていた雑談形式のコーナー「しょこたんの秘宝遊戯」をまとめたもの。そもそもしょこたんは13歳の時に『燃えよドラゴン』と『死亡遊戯』を観てブルース・リーに心酔し、以来カンフー映画にハマったほどの映画好き。ブログ等でも映画の感想を洩らすことがあり、山田洋次監督の『母べえ』を観て泣いた、とブログに書きこんだら、主演の吉永小百合が「ブログを見て感動しました」と手紙を書いたこともあるんだとか。

 しょこたんが偏愛してやまない映画を喋り倒す、という極めてシンプルなコンセプトのコラムだが、特筆すべきは毎回気合の入った直筆のイラストが付いてくること。サスペンスホラーの殿堂入り作品『サスペリア』を敬愛する楳図かずお風のスプラッタで描いてみたり、アメコミ原作の『キック・アス』のヒロイン・ヒットガールをプリキュアのような少女マンガのキャラにアレンジしてみたりと、変幻自在のタッチで見事に映画を再現、プロの漫画家顔負けのクオリティである。

 肝心のレビュートークも熱い。なかでも目を引くのはカンフー映画の傾倒ぶりだ。紹介されている79本のうち、ブルース・リーとジャッキー・チェンに関する映画だけでも18本、しかもその内の5本はブルース・リーの伝記映画とドキュメンタリーなのだ! 世界広しといえど、アイドルがブルース・リーのノンフィクション作品について語った本など、これしかあるまい。

 そして、ほとばしるブルース・リー愛を表現する言霊の数々。
「ブルース・リーを知ったからこそポジティブになれたということもあります。心のなかで未知の世界のガラスが割れましたね!」
「ブルース・リーの歴史と功績を振り返ることは、もはや人類にとっての義務教育ですよ!」

 いやはや、これは好きとか愛とか通り越して、しょこたんにとってブルース・リーはもはや唯一の神である。しょこたんはブルース・リーのどこに惹かれるのだろうか。

 しょこたんがブルース・リーを評するのに良く使う言葉が、この本のタイトルにもなっている“貪欲”である。腕立て伏せをしながら哲学書を読み、同時にテレビ鑑賞もする。自らの短い寿命をまるで予期していたかのように、あらゆることをストイックに突き詰めていくブルース・リーの姿勢を、しょこたんは“貪欲の塊”と呼び惚れ込んでいる。そう、このブルース・リーの貪欲さは、中川翔子の全方位的に事柄を追究しようとするマルチオタク振りと重なるところがないだろうか。自分の好きなものを極めるために、ひたすら邁進するオタク中川翔子の原点はここにあったのだ。本書は映画、というかブルース・リーというひとりのスターを切り口に、ルーツ・オブ・中川翔子に迫ることができる1冊である。

 ちなみに本書にはしょこたんの名作映画コスプレも収録されている。『キル・ビル』のウェディング・ドレスに日本刀の組み合わせや『サタデー・ナイト・フィーバー』のジョン・トラボルタの物まねとかもいいけど、お薦めは『007/ドクターノオ』のボンドガール、ウルスラ・アンドレスの格好を真似たもの。白ビキニが眩しいしょこたん、余りにセクシーです。

文=若林踏