つぎに読むべき本をどう探すのか? 北尾トロが「ブックガイド」を探る

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

図書館、書店、インターネット。世の中には溢れんばかりの本が出版されている。本好きなら一度は、「自分は一生かけても世の本を読みきれない」と絶望したことがあるのじゃないだろうか。可能な範囲で読めるだけ読みたい、と次から次へと本を手に取るも、どうしてもジャンルを絞ったり、自分の好みに偏りがち。だけどそれでは、もったいないのではないか?

それは、「読みたい本しか読まず、しかも視野が狭いということだ」と気づいたライターの北尾トロは、本との出会いを探し、「ブックガイド本」の存在に着目。『ダ・ヴィンチ』4月号で、いま注目の“新しいブックガイド”を調べている。

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マンガと活字本がこういう形でつながるのか……。編集Kに渡された本を見て私は考えさせられた。その本とは『バーナード嬢曰く。』(施川ユウキ)と『草子ブックガイド』(玉川重機)。内容も画のタッチも異なるが、共通するのは主人公が本好きの女子学生であることだ。

バーナード嬢曰く。』はギャグマンガで、舞台は学校の図書室にほぼ限定され、いわゆる学園マンガの範疇には入らない。タイトルからして劇作家・バーナード・ショーのもじりになっているように、狭いところをついてくるのが持ち味だ。ネタが本に関することに集中しているから、メインターゲットは本好きと考えるのが自然だろう。ネタはニーチェから世阿弥、SFまで癖ありまくり。それが作品として通用し、好評を博すというのがおもしろい。

まあ、『バーナード嬢曰く。』では、本がギャグのネタとして使われている感があるが、『草子ブックガイド』はブックガイドがストーリーの根幹を支えるマンガだ。毎回、主人公の草子が書く、読破した本の感想文が話の鍵を握っている。もちろんストーリーはあるのだけれど、一話ごとに一冊の本へと話が集約され、草子の瑞々しい感想文で山場を迎える構成なのだ。

なぜ草子がブックガイドをするのかという必然性を満たし、毎回の話に沿う本が選ばれ、的確な場面でそれが披露される。本好きの間で評判になり、熱烈なファンを生んでいるというのも頷ける。しかも、選ばれる本は有名な作品ばかり。『ロビンソン漂流記』『山月記』『老人と海』『夏への扉』……。すでに読んでいる読者が多いのを承知のうえで、草子なりの感想文が紹介されるところに作者の本読みとしての力量が発揮されている。

これはたまらんなあ、本もマンガも好きだという人は、これ読んだらガイドされている本が欲しくなる。マンガとしても読み応えがあり、ブックガイドにもなっている、一粒で二度美味しい本なのだ。ブックガイドの役割を果たすマンガが、ひとつのジャンルになるかどうかはわからないが、可能性としてはあると思う。私が書店員なら、単行本3冊に取り上げられた本を集めてフェアを組みたい。すでにやっているところがありそうだが。

ベーシックなブックガイドとしては書店の棚も見逃せないはずだが、最近は以前に比べ、棚作りに凝る店が減ったように感じられる。圧倒的な物量に押され、並べるだけで精一杯なのかもしれない。しかし、衝動買いを誘発する出会い系読書の原点は書店の棚にこそあってほしい。本好きを育てるのは書店の棚だ。目利きの書店員はナビゲーターであり、魅力的な棚は、狭いプールのようなところで泳いでいる読者を大海原へと連れ出してくれる扉なのだ。

文=北尾トロ
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魅力的な棚はどのように作られ、維持されるのか。同誌では、棚作りに定評のある、杉並区西荻窪にある颯爽堂の鈴木孝信社長にインタビュー。その驚くべき棚作り展開を分析したのち、知られざるブックガイドとして「参考文献」に着目。「あれこそ利用しそうでなかなかしない、無限の可能性を秘めた1行情報だ」と、本の旅に出発。その道程やいかに?

ダ・ヴィンチ』4月号 「走れ! トロイカ学習帖」