坂口安吾、森見登美彦…、桜の季節に愉しみたい美しき桜文学

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

「桜の樹の下には屍体が埋まっている」――そんなフレーズを一度は耳にしたことがあるだろう。だがそれが、どこから生まれたものかはご存じだろうか? 出典は梶井基次郎の「桜の樹の下には」(『檸檬』所収)。美しさ、生、死、そして再びの美しさ。桜の妖しげな一面を巧みな言葉選びで捉えていた文学作品だ。

日本人にとって桜はトクベツで格別なもの。文学のなかであらわされる桜は、なんとも優雅であり、風雅であり、典雅であり、ときに潔い。しかし妖艶で、ひとの心を惑わし、かどわかしもする。それは美しい桜のせいなのか、それともひとの心が桜に乗り移るからなのか……。誰もが知っている文豪たちも、こぞって桜をモチーフに文学を描いているのはなぜなのか。『ダ・ヴィンチ』4月号ではそんな、美しくも恐ろしい“桜文学”を紹介している。

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■「桜の森の満開の下」(『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』所収) 坂口安吾 岩波文庫 860円(税別)
桜の森がある山に、あるとき山賊が住みはじめた。街道へでて情容赦なく着物をはぎ人の命も絶つ山賊だが、桜の森の花の下にくると気が変になる。ある日、美しい女をさらい山で暮らし始めるが、その女はわがままで残酷で……。桜の花に惑わされた、もろく一途な、面妖な恋物語。

■「桜の森の満開の下」(『新釈 走れメロス 他四篇』所収) 森見登美彦 祥伝社文庫 562円(税別)
舞台は京都・哲学の道の桜並木。さえない男は、そこに咲く桜の、ひしめく花弁の異様な華麗さに恐怖を覚えるが、ある朝桜の下で、人形のように美しい女と出会う。女との出会いによって、男の運命がうそのように動き出すが……。坂口安吾の『桜の森の満開の下』を現代に置き換えた作品。

■「花の下にて春死なむ」(『花の下にて春死なむ』所収) 北森 鴻 講談社文庫 533円(税別)
七緒の俳句仲間・片岡が死んだ。遺体は荼毘(だび)に付されたが身元を示すものが見つからない。七緒は片岡が死ぬ直前まで書き残した句帳を頼りに、彼の故郷を探し出すことにした。そこに片岡を還すために。なぜ片岡は過去を捨てたのか。ビアバー「香菜里屋(かなりや)」シリーズの連作短編集のひとつ。

■「桜桃」(『桜桃』所収) 太宰 治 ハルキ文庫 267円(税別)
3人の子をもつ私は、家庭においても社会においても虚勢を張り、無理をする。私は夫婦げんかをし家を出て酒を飲む場所で、桜桃を極めてまずそうに食べては種を吐き、食べては種を吐き「子供より親が大事、と思いたい」そう、うそぶく。裏腹で、奥深く、薄氷のように壊れやすい短編。

同誌では「桜の樹の下には」をはじめとする、切なさや儚さをふくんだ美しい桜をモチーフにした小説など18作品を紹介。春を愉しむのにうってつけの特集となっている。

構成・文=大久保寛子/ダ・ヴィンチ』4月号「文庫ダ・ヴィンチ」