“リア住”(リアル住職)も羨む「さとり教育」とは?

マンガ

公開日:2014/4/25

 収入も多く、最近では婚活女性からも大人気のお坊さん。そんなお坊さんを、羨ましいと思った人もいるのではないか。お坊さんになる方法として仏教系の学校に通うというものがあるのだが、それがどんなところかはまったく想像もつかないだろう。しかし、4月1日に発売された『仏教学校へようこそ』(わかつきひかる:著、犬江しんすけ:イラスト/ホビージャパン )を読めば、どんなところかわかるかもしれないのだ。奈良の仏教学校への取材やリアル住職である蝉丸Pの監修で作られたこの作品から、仏教の教えを学ぶ“さとり教育”とはどんなものか見てみよう。

 主人公の高原大和は熱で志望校を受験できず、2次募集で仏教高校に入学することになったのだが、無宗教を主張する彼は独特な仏教高校の生活に戸惑う。まず、入学式の段階からかなり変わっているのだ。入学式はお寺の境内で行われ、お坊さんたちの読経や先輩たちのご詠歌を聴いたりもする。その後、教室で全員に数珠、仏教科の生徒にはさらに独鈷杵(どっこしょ)が配られる。もちろん、担任は作務衣姿のお坊さん。そして、校歌と同じ感覚で、すべてのイベントで般若心経を暗唱するそう。文字数にすると、たった276文字の般若心経だが、覚えるとなるとまた話は別。仏教学の中間テストは般若心経の暗唱が70点、ペーパーテストが30点という配分なので、暗唱ができなければ赤点になってしまうのだ。

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 また、体育でもこのさとり教育は徹底されている。初代理事長が「春日山は我が校の校庭です」と言ったことから、ランニングとして片道3kmの道のりを走らなければならなくなった。春日山原始林をその懐に抱く広大な秘境でもある春日山では、遭難する可能性もある。大和が「お腹が痛い」と言って抵抗を試みると、教師は「それは大変だ。だったら五十分間、瞑想してみるかね?」と50分間の正座か秘境のランニングかという二者択一を迫ってくる。結局諦めて走ることになるのだが、砂利道や石段、鹿のふんなど、足場の悪い道に加えて、鹿や修行僧、観光客もいるので、かなり走りづらいが、もたもたしていると日が暮れて、本当に遭難してしまいそうになるのだ。無事に走り終えても、足の裏は皮が剥け、帰宅時のバスでは立っていられないほど。そのうえ、この学校には薙刀の授業や柔道、剣道、空手道、合気道を学ぶ武道科まである。仏教学校では、精神面だけでなく、肉体的にもかなり強く鍛えられるよう。

 そして、仏教学校に通う生徒たちは、普段の生活のなかでも自利利他、二利円満といった仏教の教えを学ぶ。この自利利他、二利円満とは、「私は幸せ、あなたも幸せ」「私はオッケー、あなたもオッケー」という考えのことで、ビジネス用語のWin-Winとも同じようなもの。たとえば、恵まれない子どもたちのために募金をする。お金を入れると自分はいいことをした気持ちになれるし、そのお金で誰かが幸せになれる。大和たちが、華道部として大般若祈祷会というイベントのために花を生けたときは、それを見た人が喜んでくれて、自分も嬉しくなった。はじめ、宗教は気持ち悪いと思っていた大和だが、自利利他がみんなの幸せをめざす考え方であるように、「よりよく生きるための知恵が詰まっているのが仏教」だと考えられるようになったのだ。

 仏教を気持ち悪いと思っていた大和は、仏教高校でのさとり教育でリア住(リアル住職)の僧職系男子(お坊さん)になれるのだろうか? さとり教育の成果を見届けるまでは、まだまだ目が離せない。

文=小里樹