職場、家庭、友人関係…「叱る」のではなく、上手に「ダメ出し」する方法

人間関係

公開日:2014/4/28

 とある会社で経理部の部長を務めるMさん、有能な経理マンなのだが、部下へのダメ出しが苦手だそうだ。特に手を焼いているのが20代の部下。彼は叱られたりダメ出しをされたりすると、子どものようにムクれてフテ腐れるので、言う気が失せてしまうと言う。かといってダメ出しをしないと「何も注意されない自分は有能」と勘違いしてさらにミスを連発(本人は無自覚)、結局M部長が尻拭いし、そのことで役員から注意される悪循環でホトホト困っているという。Mさんは「人格を否定するような叱り方はしていないし、仕事でのミスを指摘して、今後気をつけるようにと言っているのですが…」ということなので、『ダメ出しの力 職場から友人・知人、夫婦関係まで』(繁桝江里/中央公論新社)を参考に、私からMさんに「ダメ出し」をしてみた。

 本書は「こういう場面ではこう言うべし!」といったハウツー本ではない。社会心理学と社会コミュニケーションを研究する著者による「ダメ出しからイイ効果を引き出す、ネガティブな情報からポジティブな効果を生み出すという視点」から「ダメ出しの力」を考える本だ。なので難しい言い回しや専門用語があり、少々歯ごたえのある読み口なのだが、「職場」「友人・知人」「夫婦」といったシチュエーション別で「どう対処すべきか、それはどんな効果を生むのか」といったことをデータ等から具体的に説明している。ちなみにダメ出しとはもともと舞台用語で、専門的には「ネガティブ・フィードバック」といい、これは「相手に対し否定的な評価を返すこと」を意味する。

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 職場でのダメ出しは、成長につなげる意識を持つことが重要となる。

 本書には「組織ではダメ出しは避けられない、避けるべきコミュニケーションではない」とあり、部下がダメ出しを活かせないのは上司を信頼していないことが原因だ。この信頼は「自分はここでミスをしていたんだ」と気づいてプラスとして聞いてもらえるのか、逆に「部長うっせーな」とマイナスに取られるのかの重要なファクターとなる。職場での「指摘や評価」は仕事のパフォーマンスを高めるものであり、ダメ出しは上司の重要な仕事なので、理解が進むために必要な部下への「ダメ出し」が上手にできず、向上する意識の高い職場の雰囲気を作れないMさんは上司失格なのだ。

 「じゃあ私はどうしたらいいんですか!」とワナワナするMさんに追い打ちをかけるようだが、ダメ出しを聞いてもらうには、日頃のコミュニケーションが大事になってくるそうだ。何をどう諭すか、またダメ出しだけではなく良いところは褒めて、時には解決法を示すことがも必要になる。さらには当人の性格、同僚のサポートの有無など、ダメ出しのやり方はその職場ごと、そしてダメ出しをする人とされる人によって変わってくる。Mさんは自分が優秀なだけに、人の意見を聞かず、「どうしてできないのか」という奢った気持ちがあったのではないだろうか。まず一呼吸置き、頭ごなしに言いたい気持ちを抑え、相手の立場になって考えることが必要では、と言うと「わかりました。私は部下を信頼せず、自分ひとりで仕事をし過すぎなのですね…」と納得してもらえた。

 こうしてダメ出しをした私とMさんの関係性にも、立場が上なのか下なのか、頻繁に会う間柄なのか、お互いにダメ出しをし合える関係なのかという「ダメ出しの力」が働いている。またダメ出しがこじれやすい夫婦関係(恋人関係も含む)については、けなし合いにならないために注意するポイントなどが本書で説明されている。言いにくいことだからこそ、言うべき関係性であるからこそ必要な「ダメ出し」。苦手意識を持っている人は、まずそのメカニズムを知ってみると、相手のことを慮った「良いダメ出し」ができるようになるかもしれない。ちなみにMさんからは「君は論理的に相手を追い込んで反論の余地を残さないので、そこは気をつけた方がいいですよ…」とダメ出しが。すみません、気をつけます……。

文=成田全(ナリタタモツ)