いいね! が有料? 地域通貨? 専門家が予測するお金儲けと幸せの関係

経済

公開日:2014/5/4

 4月1日から消費税が8%へアップするという前日まで、駅の定期券売り場に長蛇の列ができたことは記憶に新しい。たった3%の値上がりとはいえ、不況下においては節約すべき大切な金額なのである。アベノミクスなどとメディアでは騒がれていても、それはほんの一部の富裕層が優遇されるのみ。庶民が収入を増やすにはFX、アフィリエイト、YouTubeでの広告収入など、さまざまな選択肢があるとはいえ、どれもうまくいくかどうか確証は得られない。目先の小銭稼ぎをする前に、ここらでいったん、お金の本質について考えてみるタイミングなのかもしれない。

 経営コンサルタント会社、ベンチャーキャピタル会社などを営み、お金に関する専門家として多数のベストセラーを出版している本田健氏による、作家10周年の記念作『金持ちゾウさん 貧乏ゾウさん 仕事と人生の変わらない法則』(PHP研究所)を紐解いてみよう。本書はタイトルからわかるように、ベストセラーであるロバート・キヨサキ著『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)のアンチテーゼだという。

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 かつては炭鉱の町として復興したカネー村には、ゾウたちが住んでいる。住人はそれぞれの身丈に見合った生活を送っていたのだが、ある日、ヘッジファンドの勧誘によって騒動に巻き込まれることに。お金が持つ魔力や、利益に目が眩んで一喜一憂する心模様が、童話のような優しい語り口調で展開されていく。

 主要登場人物の名前はそれぞれナイーゾ、ヤルーゾ、ヘルーゾ、トルーゾなどと、性格を反映したもの。読者はそれぞれに自分を投影しながら、読み進めていくことができる。ヘッジファンドを持ちかけるのは、青年実業家でもあるトルーゾだ。同窓会の席で旧友に儲け話をすることから、騒動の幕は開かれる。お金がどんどん儲かると信じて、村中が喜びにあふれて浮かれていた日々から一転し、トルーゾが信じていた師匠的存在が持ち逃げをしてしまうことで、それぞれの象は財産をなくしてしまうことに。そのとき、仕事のことや妻のこと、子どものこと、親のことなどを振り返り、本質を今一度思い出していく。

 ナイーゾはパン屋を営んでいたのだが、父から譲り受けた仕事を好きになれないでいた。しかし、村の住人たちが財産をなくし、悲しみのどん底に沈んでいたときに、パンを焼く決意をする。やがて、やってきた客たちは嬉しそうにパンを買って行く。お金のない者に対しては、支払いは後日でもよいと言ってパンを譲った。また、友人が自殺を企てて、一命を取り留めた病室でパンを食べさせると「おいしいよ、ナイーゾ、このパンは最高だよ。ぼく、昨日から何も食べていなかったんだ。おいしい、本当においしい!」と美味しそうに食べる様子を見て、自分の仕事の素晴らしさに気づくのである。つまり、人を喜ばせることこそが仕事の本質であり、それは自身の喜びにも繋がっていくのだと、ナイーゾは知ったのだった。収入の低さを嘆いて愚痴ばかり言っていた妻も「あなたを好きになったのはね、あなたのパンを焼く姿がすてきだったからよ」と涙を流す。

 物語の中で興味深いものとして、銀行について説明されている部分も挙げたい。誰もが疑問なんて抱かずに、日常的に銀行を利用しているだろう。銀行はそもそも金塊を預ける場所だったのだが、預かり証を客に渡していたことが、紙幣の起源だという。やがて、銀行は貸付を始めることで、利子で儲けを出すようになる。その仕組みとは、一度に全額を引き出す預金者はいないだろうという考えの元、銀行は預かったお金を他者に貸し付けたり、他国へ投資をしてしまうのである。つまり、銀行は、預かったお金の2倍を得た計算となる。預金額と貸付、返済とのバランスが崩れてしまったとき、預けていたはずの預金が戻ってこないという事態は想像に容易い。そんな危うい仕組みが、現在も続いているのである。

 本書は物語と、著者による補足的な解説とのパートにわかれている。後半の解説で、著者は経済に関する予測をしており、政府が発行する通貨とは別に、特定のコミュニティでのみ通用する地域通貨の出現を示唆している。世間が不況となり、通貨の価値がなくなったとしても、地域通貨には影響がないという考えだ。また、「“いいね! 有料”というボタンができると、おもしろいことが起きるのではないでしょうか。だれかの生き方をフェイスブックで見て、この人は応援したいという人にお金を送ってあげる機能です」と、ユニークな考えも語られている。

 生きていく上で誰もが付き合わざるを得ず、また、さまざまな悩みもつきまとうお金。でも、生き方という視点から考えると、お金と幸せとは、密接な関係にあるよう。闇雲に稼ぐことで得られるものもあるが、本当の安心はお金では買えないのかもしれない。家族や友人、そして仕事について深く考え、整えて、方向を定めていくことが、お金を考える上での一歩なのだろう。

文=八幡啓司