ホントに必要? “夢の超特急”リニア中央新幹線

経済

公開日:2014/5/7

 東京-大阪間を1時間余りで結ぶ“夢の超特急”リニア新幹線。2014年秋から着工ということで、いよいよプロジェクトが具体的に動きだそうとしている。しかし、こんな国家レベルの大プロジェクトのはずなのに、リニア新幹線について「なんとなく」しか知らない感じがしないだろうか?

 この「なんとなく」な空気に警鐘を鳴らし、「リニア中央新幹線は本当に必要か」と提言するのが橋山禮治郎氏の『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』(集英社)だ。本書の紹介からリニア新幹線の「なんとなく」感を解消してみたい。

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 そもそもリニア計画の技術開発は旧国鉄を中心に1960年代から継続的に行われ、87年に国鉄民営化後はJR東海が行っている。リニアが“夢の超特急”として脚光を浴びたのは、1980年代半ばから90年代初頭のバブル期だったが、バブル崩壊により一旦計画が消え去る。

 突如計画が世間に再登場したのは2007年。2045年を目処に東京-大阪間で世界初の超電導磁気浮上式リニア鉄道を開業、JR東海が自社の資金で建設、という計画が発表された。最高速度505キロ、東京-名古屋間を40分、東京-大阪間を67分、走行区間の大部分は地下40メートル以深の地下及び山岳トンネル、という内容だった。

 本書では大きく「目的」と「手段」に着目して、リニア新幹線のプロジェクトを検証している。プロジェクトを成功させるには、「正しい目的」(必然性・妥当性・納得性)と「最適の手段」(信頼できる技術・方法・ノウハウ)が不可欠、という考えだ。

 まず、「目的」から考えて行きたい。「リニア中央新幹線計画」が一貫して掲げてきた目的は、以下の3つ。
(1) 東海道新幹線が輸送力の限界に近づいたため、増強が必要。
(2) 東海道新幹線の老朽化・経年化に対する対処。
(3) 移動時間短縮のための大幅な高速化。

 まず(1)については、現在の東海道新幹線の平均乗車率は60%前後。これは90年代からほぼ横ばいで、平均値とは言え「限界」という言葉とはかけ離れた状況だ。さらにこれから日本は人口の減少が見込まれている。そこにわざわざもう1本線を引く必要があるだろうか?

 続いて(2)の老朽化対策は、東海道新幹線の改修を進めるべきで、「在来線が老朽化したからバイパスを引く」という理屈はおかしい。そんな鉄道会社はないだろう。

 (3)の速さは、「そんなに急いでいるのか?」ということで、個人で意見が分かれるところだが、これは正確な需要予測がJR東海によっても行われていない(公開されてない)ところに問題がある。需要の根拠なしと言われてもやむを得ない状況だ。

 次に「手段」に着目してみる。手段とは、目的を実現する方法。筆者は過去の巨大プロジェクトの成功例・失敗例から、「手段」が乗り越えるべき壁を3つ定義している。
(1) 経済性の壁
(2) 技術的信頼性の壁
(3) 環境適応性の壁

 こちらも順に見ていくと、(1)の経済性については、まず建設費9兆3000億円という初期投資額の大きな壁。それを賄う収入の見通しとして、2045年の東京・大阪開業時点で、東海道新幹線等も含めた東京―大阪間の移動需要が、2011年時点から50%増するという予測を元に回収可能としている。しかし人口推計では、2050年時点では、2011年比で総人口は24%減。収支予想は、期待値・願望を元にしているように見え、信頼できない。

 (2)の技術的信頼性は、深い地下トンネルの中での安全性確保がまず第一。災害が起きた場合の対処方法等、未知の課題は多い。リニアが発する強い電磁波による人体被曝も大きな課題だ。健康への影響がないことが確認される必要がある。また、現在の新幹線の3倍以上とも言われる膨大な電力の確保。大震災以降の省エネのエネルギー政策の中で、原発3基程度とも予測される電力が必要とされる。

 (3)の環境適応性は、南アルプス直下のトンネル掘削工事による、自然破壊・景観破壊が懸念されている。沿線地域の騒音・振動のリスクも考慮されなければいけない問題だ。

 このように「目的」「手段」ともに課題が山積しているように見えるが、最も問題なのは、冒頭に挙げた通りこのプロジェクトが「なんとなく」進行している状況だろう。2010年に国土交通大臣から交通政策審議会への諮問がされ、審議が行われているが、そこでは目的の妥当性も議論されていない状況。これだけの大プロジェクトであるにも関わらず、計画の綿密な検討がほとんどなされていないように見える。

 「リニア新幹線」は、JR東海という一民間企業のプロジェクトというかたちで進み、JR東海も周りに邪魔されずに進めたいという姿勢が随所に感じられる。自らの責任で実施すればいいというような雰囲気だが、「リニア新幹線」は、6000万人が生活する首都圏・関西圏を結ぶ大動脈輸送であり、日本の将来の姿を決める今世紀前半最大のプロジェクトだ。JR東海が立ちゆかない赤字になった場合、おそらく負担は国民がかぶることになる。

 それでも本当に必要なのか。今一度立ち止まって考えてみるべきではないだろうか?

文=村田チェーンソー