どうしても抑えられない“怒り”を解消する5つの方法―パワハラの加害者にならないために

人間関係

更新日:2016/1/13

 怒りの感情を制御できれば、周囲の評価が変わってくる。バナナを投げ込むというファンの差別的行為に、それをなにくわぬ顔で拾って食べるというユーモアで切り返したサッカー選手、バルセロナのブラジル代表DFアウベスは、自分の怒りをコントロールする力に長けているのかもしれない。

 しかし、日本のビジネスマンを取り巻く現状は、そんなユーモアを発揮できるゆとりに乏しく、職場における陰湿なパワハラが増加している。

advertisement

 厚生労働省が2013年に職場のパワーハラスメントに関する実態調査を行ったところ、「過去3年間にパワハラを受けたことがある」と回答した人は25.3%(回答9000人)。企業と労働者の紛争に関する相談件数のトップは、2012年の時点で「いじめ・嫌がらせ」相談が1万件を超え、過去最多であることが明らかとなった。

 『パワハラ防止のための アンガーマネジメント入門  怒り、イライラのコントロールで、職場は変わる! 成果が上がる!』(小林浩志/東洋経済新報社)の著者は、職場のメンタルヘルスの観点から、怒りをコントロールするアメリカ生まれの理論、“アンガーマネジメント”の重要性を指摘している。

 ちなみに公衆の面前での叱責や人格否定は「公開叱責」と呼ばれ、パラハラにあたってしまう。部下の立場をなくしてやる気を失わせる可能性があり、公開叱責からうつ病となり、会社が訴えられたケースもあるそうだ。冷静に「叱っている」つもりが、実はゆとり世代やさとり世代の自尊心をつぶして心を折ってしまっているのかもしれない。コミュニケーションの専門家いわく「相手を凹まさない」「追い込まない」「逃げ場をつくる」ことは非常に重要で、指導とは「教え、導く」ことだと再認識すべきであるとのこと。

 では、まず本書で紹介されている「パワハラにつながる怒りの発生パターン」の中から「6つのコアビリーフ(譲れない価値観)」を紹介しよう。

(1)道徳心が強い・正義感が強いタイプ←→自分が裁く権利のないことにも口を出して怒る
(2)利己心が強い・完璧を目指すタイプ←→価値観が合わない相手に怒り、排除したがる
(3)自尊心が強い・誇り高いタイプ←→自分が軽く扱われたと感じると激怒する
(4)執着心が強い・粘り強いタイプ←→ガンコで譲らないためカリカリしやすい
(5)警戒心が強い・用心深く謙虚なタイプ←→猜疑心や劣等感が刺激されると怒る
(6)自立心が強い・長いものに巻かれないタイプ←→独善的で批判的になりがち

 人は誰でも譲れない「こだわり」や「価値観」をもっており、人が怒りを感じるのは、こだわりや価値観につながる “○○であるべき”、または“○○であるべきではない”という、自分の中の“べき”が裏切られた瞬間だ。つまりどんな“べき”を大切にしているかが把握できると、どのような場面で怒りやすいタイプなのかがわかり、イラッ! とくるシーンが予測できるようになってくる。

 怒りをコントロールするアンガーマネジメントの根底に流れるのは、「過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる」という解決志向。その方策として、自分の「怒り体質」への対処法と改善法を学ぶのである。本書から「怒りの対処法および改善法」を、いくつかご紹介してみよう。

●アンガーログで怒りを「見える化」する
あいまいでとらえどころのない怒りの感情を文字化することで、思考や感情を客観的に可視化する

●カウントバックで意識をそらせる
人の怒りのピークは長くても6秒しか続かない。カチン! ときたら、頭の中で6秒数える

●「べきログ」でコアビリーフを客観視する
自分がよく思う「~であるべき」を書き出し、自分のコアビリーフを客観視し、把握する

●呼吸リラクセーションを行う
怒りを感じて早く浅くなってしまった呼吸を、腹式呼吸の要領で、ゆっくり深く行いリラックスに導く

●アサーティブコミュニケーション力をつける
自分も相手も大切にする会話法で、相手を攻撃することなく、Win-Winな自己表現を実現するテクニック

 果たしてこんなことでパワハラが防止できるのか、と、疑いをもつ方もいるかもしれない。しかし、人はいつでもカッとすると目の前しか見えなくなりがちな傾向にある。そんなときに衝動的にとってしまう言動ほど、取り返しがつかないものだ。

 そして怒りを感じた瞬間、はたと我に返るための対処術や、心のゆとりがあるかどうかで、人間関係での思わぬ失敗の数に差がついてくる。怒りを制御することで、おそらく人間力も、ついてくる。アンガーマネジメントはパワハラだけでなく、恋愛をうまく進めたり、夫婦ゲンカ対策においてもその威力を発揮することだろう。

文=タニハタマユミ