葛藤を真正面から描く! 池井戸潤ワールドが日本中の心をつかむ理由

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

いまやテレビ業界にとってなくてはならない存在となった小説家・池井戸潤。『オレたちバブル入行組』などバブル組シリーズを原作にした『半沢直樹』が驚異的な大ヒットを果たし、原作本はシリーズ累計100万部を突破した。今季ドラマではなんと『ルーズヴェルト・ゲーム』『花咲舞が黙ってない』の2作品が池井戸作品を原作としているという人気ぶりだ。『ダ・ヴィンチ』6月号「文庫ダ・ヴィンチ」では、そんな池井戸作品を特集。書店員、番組プロデューサーのインタビューと共に、好評放送中のドラマについても魅力を分析している。

しかし池井戸作品が映像化と相性がいいのは、いまに始まったことではない。都市銀行内の不祥事を描いたデビュー作『果つる底なき』は渡辺謙主演で単発ドラマとして放送された。三菱自動車のトラック脱輪による事故やリコール隠しをベースに大企業の闇を描いた『空飛ぶタイヤ』、ゼネコンの入札にからむ談合の実態を新米社員の眼差しを通じて描いた『鉄の骨』など、社会において我々が大なり小なり直面する葛藤を「仕事」「企業」を通じて鋭く真正面から扱う池井戸作品は、観る者をときに共感させ、ときに良心に問いかけさせるのだろう。痛快で、ギリギリのせめぎ合い、ドキドキの連続、そして“心に響く言葉”がつまっている池井戸作品。映像だけでなく、本来の文字の魅力で改めて味わってみてほしい。

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■『果つる底なき』講談社文庫 648円(税別)
二都銀行の融資課に勤める伊木の同僚・坂本がショック死した。しかも坂本は顧客の口座から3000万円を着服していた。伊木が坂本を調べるうちに新たな事件が起こり、思わぬ事実が発覚し……。

■『空飛ぶタイヤ』 (上・下)講談社文庫 各648円(税別)
赤松運送のトラックがタイヤ脱落事故を起こし死傷者を出した。事故原因は赤松運送の整備不良と決めつけられたが社長の赤松は、原因は自動車メーカーの車両にあるとし大企業と真っ向勝負をする。

■『鉄の骨』講談社文庫 各838円(税別)
富島平太は中堅ゼネコンに入社して4年目。現場監督をしていたが突如、談合課と呼ばれる業務課へ異動。いままで知らなかった建設業界の現実と闇を知り、翻弄されながらも自分を信じ突き進む。

■『下町ロケット』小学館文庫 720円(税別)
佃航平は研究者だったが、いまは精密機械製造業の佃製作所を経営している。不況の影響で取引先の離反、資金繰りに悩まされ会社の危機に。さらに競争相手に特許侵害で訴えられ窮地に……。

■『オレたちバブル入行組』文春文庫 657円(税別)
都銀に勤める半沢直樹は支店長命令で、無担保で5億円の新規融資をした。しかしその企業が不渡りを出し倒産、社長とも連絡がつかなくなる。支店長はそっぽを向き、半沢ひとりが窮地に立たされる。

■『オレたち花のバブル組』文春文庫 657円(税別)
みごと5億円を回収し、次長として返り咲いた半沢直樹。しかしまたもや半沢の周囲は、きな臭くなる。老舗ホテルの再建、銀行内部の見えざる敵との戦い。しかも金融庁には目をつけられ……。