第1回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞・第8回『幽』怪談文学賞 授賞式レポート

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

2014年5月20日(火)に、都内で第1回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞と第8回『幽』怪談文学賞の授賞式が行われた。

ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞とは、一昨年までおこなわれていた「ダ・ヴィンチ文学賞」に代わって創設された文学賞で、「本にまつわる物語」を対象とした文学賞だ。本がストーリーの中で重要なアイテムとして使われていたり、書店や図書館が舞台だったり、作家が重要な人物として登場するなど、ストーリーの中で本にまつわる要素が含まれていることが求められる。

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その記念すべき第1回となる今回は全部で219作品の応募があった。読者審査員および書店員審査員155名、そして弊誌編集スタッフによる最終選考を経た結果、大賞に選ばれたのは藤石波矢『初恋は坂道の先へ』。読者賞には、やながさわ かだ『イワレ奇譚』が選ばれた。

大賞受賞作の『初恋は坂道の先へ』は1冊の本と共に失踪した恋人を巡る青春ミステリーだ。授賞式で登壇した藤石氏は「小説のようなものは子供の頃から書いていたが、今まで書き続けられたのは家族をはじめ周りの支えがあったから」「今回の受賞作は恋愛ものだけれど、それ以外にもヒーローものなども好きなのでジャンルにこだわらずに書いていきたい」と次回作への意欲を示した。

読者賞を受賞した『イワレ奇譚』は伝説の都市イワレを探す大富豪のキルジとそれを追う新聞記者ヌバーイの物語。受賞したやながさわ氏は、最終候補に残った知らせを受けたときを振り返り「そのときは読者審査員の方をはじめたくさんの人に読んでもらったのだから受賞できなくてもいいや、と思っていたけれど、実際に受賞してみるとこんなにも嬉しいのかと驚いた」と受賞の喜びを語った。

  • 『幽』怪談文学賞

続いておこなわれた第8回『幽』怪談文学賞授賞式では会場の照明も暗転し妖しい雰囲気の中の発表となった。

『幽』怪談文学賞の長編部門大賞には石川緑『常夜(「天竺」改題)』が選ばれた。特別賞には添田小萩『きんきら屋敷の花嫁(「この世の富」改題)』が、奨励賞には内藤了『顔剥ぎ観音』がそれぞれ選ばれた。短編部門大賞は沙木とも子『そこはかさん』が受賞した。

選考委員を代表して登壇した岩井志麻子氏は、自身の著作が亡くなった人の棺に入れられていたというエピソードを語り「それを聞いて非常に嬉しかったんですよね、これからの人(受賞者)の前で話すのは縁起がよくないような気もするのですが、死も旅立ちなので、そのときに自分の本を持っていってもらえるのはほんとうに嬉しかった」「これからもどんどん棺に入れてもらえるような作品を書いていきたい」とユニークなエピソードで受賞者にエールを送った。

  • 『幽』怪談文学賞
    左から石川緑氏、沙木とも子氏

続いておこなわれた受賞者の挨拶で、長編部門大賞の石川氏は「静かに誰にも知られないように書いてきた作品に光をあててもらいありがとうございます」「これからも日々の不安を糧に楽しいものと怖いものと両方書いていきたい」とコメントし、特別賞の添田氏は「受賞は夢のまた夢だと思っていたので、ほんとうに嬉しい」「明日ぽっくりいっても恨みを残さず成仏できると思います」とコメント。怪談作家ならではの言葉で喜びを表した。

さらに短編部門大賞の沙木氏は霊的な経験はないと語りながらも、自身の家族が亡くなったときに病院でおきた不思議なエピソードを紹介し「怪談が鎮魂の意味を持ち得るのか。今後はそういうことにも挑戦したい」と怪談の可能性を示すとともに今後の意気込みを語った。

第2回ダ・ヴィンチ「本の物語」の応募の受付も開始されている。コンセプトは変わらず「本にまつわる物語」で、締切は2014年7月31日。『幽』怪談文学賞は、次回の第9回は『幽』文学賞と名称を変更し開催される。短編部門の締切は2014年6月2日、長編部門は2014年8月1日となっている。

●第1回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞
大賞:『初恋は坂道の先へ』藤石波矢
読者賞:『イワレ奇譚』やながさわ かだ

●第8回『幽』怪談文学賞
長編部門大賞:『常夜(「天竺」改題)』石川緑
長編部門特別賞:『きんきら屋敷の花嫁(「この世の富」改題)』添田小萩
短編部門大賞:『そこはかさん』沙木とも子

募集要項の詳細
第2回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞募集要項
第9回『幽』文学賞 第6回『幽』怪談実話コンテスト募集要項