なぜ人間は、他人の不幸は蜜の味「メシウマ」状態が気持ちいいのか?

科学

公開日:2014/5/27

 私たちはなぜ、“これは明らかによくない”とわかっていても、それをやめられないのだろう。

 たとえば、ダイエット中なのについ甘いものを食べてしまう、結局は使わないモノを衝動買いする、浮気しがちなタイプばかりを好きになる、人の悪口がどうしてもやめられない、片付けたいのに片付けられない、などなど。

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 これらの“わかっているけどやめられないこと”たちは、実は「脳にとっては気持ちのいいこと」であり、やめたくてもやめられないのは「脳の悪いクセが原因」なのだという。

 そんな気になる脳のメカニズムをひらたく解説してくれるのが『コミックエッセイ 脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』(中野信子・ユカクマ/アスコム)。原案担当の中野信子先生は、情報バラエティ『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系列)でもおなじみ、気鋭の女性脳科学者だ。恋愛や性、美容、仕事や片付けなどの悩みと脳の関係に詳しく、本書でもごく身近な例から脳の不思議をひもといている。

 たとえば冒頭にあげた“やめられないこと”たちの場合、「脳をだませば食欲は止まる」「買い物依存症はストレスが引き起こす」 「浮気しがちなタイプは、遺伝子的に決まっている」「人の悪口を言うと快楽物質も分泌されるが同時にストレスにもさらされる」「片づけられないのは前頭葉の機能不全が原因の可能性あり」と、その原因を一刀両断。人の行動がいかに「脳のクセ」に支配されているのかがみえてくる。

 そして「脳のクセ」は、ときに他人の不幸を蜜の味にも変えてしまうという。いわゆる「メシウマ状態」も、脳のしわざなのである。こうした感情にはうしろめたさが伴うため、恥ずべき喜びを意味するドイツ語「schadenfreude(シャーデンフロイデ)と名付けられ、脳科学や心理学の研究対象にもなっている。シャーデンフロイデのカギを握るのは、不安情動に関与する前帯状皮質と、快感を生み出す脳領域の腹側線条体とされている。

 近年に行われた実験では、シャーデンフロイデに関する興味深い事実が判明した。「利他的懲罰(ズルした人に制裁を加えること)」に関連した実験で、女性の場合は、苦しんでいるのがたとえ「公正さに欠ける人物」であっても、微弱ながらも共感する気持ちが生まれた。しかし男性は「公正さに欠ける人物」が苦しんでいた場合、相手の痛みで脳の報酬系が活性化(喜びを感じていた)したのだ。つまり男性脳のほうが、メシウマ状態を感じやすい傾向にあることが示されたのである。

 ちなみに、「妬み」に関連した他人の不幸を喜ぶ脳の活動についての研究も紹介されている。被験者の「かつての同級生の成功や豊かな生活場面」を刺激として脳活動を記録すると、不安や痛みを感じていることが判明し、また「その同級生が不幸に陥ったことを知ったとき」の脳活動では、快感領域が活性化したという。この実験では男女を問わず、シャーデンフロイデが誰の脳回路にも実在する感情であることが証明されたのだ。

 なんだかイヤな結果を聞いてしまったと思うかもしれないが、中野先生によれば、シャーデンフロイデは「社会がうまくまとまっていく上で必要であったり、やる気やモチベーションを上げる役割も果たす、大切な感情でもある」とのこと。「メシウマ状態」は、脳にもともと備わっている感情であり、逆に言えば脳のクセでしかない。自分よりデキる同僚の失敗をみつけてほくそえんでしまい、「オレってちっちぇえ」と凹む必要はないのである。脳を制するものは、恋愛やダイエット、人生をも制するというのが、本書のメッセージだ。逆に脳のクセを飼いならすつもりで向き合ってみると、案外、何か新たな発見があるかもしれない。

文=タニハタマユミ