あなたは“物語”を買わされていないか? ストーリーブランディングを見抜く3つのポイント
公開日:2014/6/3
「物を売らずに物語を売れ!」。『物を売るバカ 売れない時代の新しい商品の売り方』(川上徹也/KADOKAWA 角川書店)の主張だ。本書は、商品に物語を与えて売るマーケティング手法を「ストーリーブランディング」と名付けて紹介している。例えば、以下が分かりやすい例だ。
A、B、Cの3つのリンゴがあって、それぞれに説明があったら、どれを選ぶだろうか?
A ごく一般的な農法で育てたリンゴ
B 「葉取らずのリンゴ」です。まわりの葉を取らずに栽培し、果実に十分に栄養をいきわたらせたリンゴです。そうすると見た目は少し悪くなりますが、断然甘くおいしくなります。
C 「奇跡のリンゴ」でおなじみの木村秋則さんが作ったリンゴです。木村さんは全体に不可能と言われていたリンゴの無農薬無肥料栽培を、8年の歳月をかけ長年の極貧生活と孤立を乗り越えて、試行錯誤の末にようやく実現しました。
だいたいの人がCを選ぶのではないだろうか。私もCの「奇跡のリンゴ」が食べてみたい。
<あなたは「奇跡のリンゴ」を欲しい、あるいは食べたいと思ってCを選んだと思っていますが、実は食べたかったのはリンゴではなかったのです。リンゴではなくそれにまつわる木村さんの物語を食べたかったのです。>
…というのがその解説。ズバリその通りだなぁ、と思うのだが、同時になにか気持ち悪さも感じた。「こういうの、好きでしょ?」というような視線。実際そういう物語は気になるし好きなのかもしれない。ただ、この例を読んだ印象では、今後こういうマーケティングが流行していくのだとしたら、自分が無意識に持っている物語に対する欲望には、自覚的でありたいものだなぁ、怖いなぁ、と、身構えてしまった。
ということで、以下は本書で紹介されている具体的メソッドから、ストーリーブランディングに気づくための視点で、その特徴をまとめてみた。ストーリーブランディングにも良いもの・悪いものあると思うが、消費者としてはそうだと気づけることが大事だ。
【ポイント1】 商品に「志」「独自性」「魅力的なエピソード」がある
著者曰く、ストーリーマーケティングの公式は、「商品+人=物語」。その商品や会社が本来持っている価値をわかりやすく見える化させるのが物語の役割。3つの要素(「3本の矢」と呼んでいる)がその構築のポイントだそうだ。
(1) 志(こころざし):世の中に発信する「大義」
(2) 独自化のポイント:3つのワン「ファーストワン」「ナンバーワン」「オンリーワン」
(3) 魅力的なエピソード:実際にあった象徴的なエピソード
…これらの要素が揃っていて、商品がキラキラと輝いて見える場合、ちょっと気持ちを落ち着けたほうがいいかもしれない。
【ポイント2】 物語にストーリーの黄金律がある
人類には共通の物語の感動のツボがあるそうだ。「ストーリーの黄金律」と呼んでいる法則が以下。
(1) 何かが欠落しているまたは欠落させられた主人公が
(2) 何としてもやり遂げようとする遠く険しい目標やゴールに向かって
(3) 数多くの葛藤、障害、敵対するものを乗り越えていく
前出の「奇跡のリンゴ」の例などは、ドンピシャリ当てはまる例だ。思わずその物語の主人公に強く感情移入して、応援(=購入!)したくなったら、一旦お茶でも飲んで冷静になったほうがいいかもしれない。
【ポイント3】 ラブストーリーのように好きになる
著者は、お金を使ってくれる濃くて熱いファンを獲得するために、お客さんから「理屈ぬきで」好きになってもらうための方法として、「ラブストーリー戦略」を挙げている。その方法は例えば、
・「おもしろそう」と思わせる:「おもしろい」という人にとっての「快」を与えてくる
・お客さんと親密になり、一緒に行動する:単純に接触時間を増やすことで好意度や印象を強めようとする
・自分をさらけだす:何か秘密や弱みをさらけ出し「自己開示」することで、警戒心を解かせる
…気付いたらとても親近感を感じているあの店員さんは、「ラブストーリー戦略」を仕掛けてきているのかも。泥沼にハマる前に、距離を置いたほうがいいかもしれない。
以上、これらが、ストーリーブランディングを見抜くための特長だ。これさえ知ってればもう大丈夫! …と書いてる私は、それでもやっぱり「奇跡のリンゴ」を一度は食べてみたいです。
文=村田チェーンソー