アニメ作品の成否を決める制作進行さんの「暗黙の実務」とは?

ビジネス

公開日:2014/6/14

 TVだけでも一週間で50タイトル以上が放送される日本のアニメーション。30分のTV作品でも200人~300人のスタッフが携わり、たくさんの人が協力して作り上げられる。その全工程に関わり、スケジュール・予算・スタッフを管理して、なおかつ納品に間に合わせるべく全体を進行するのが、本書『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本(星海社新書)』(桝本和也/講談社)で紹介される制作進行さんの仕事だ。

 制作進行の担う実務は、大きく3つに分かれる。

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(1) 作品素材の管理
絵コンテ・レイアウト・原画・動画・背景…といった膨大な量の作品に関わる素材をいまどこにあるか把握して、なくさないこと。

(2) スケジュールの管理
「納品(完成)に向けて、各セクションが十分な仕事ができる日程」を調整すること。ただし、90%以上(!)がスケジュール通りにいかない、とのこと。

(3) 作業環境の管理
スタジオ設備の管理・作業道具の管理・防犯・交番・病院の確認(!)など、「クリエイターが仕事に集中できる場づくり」をすること。

…これだけでもかなり大変そうだが、「よし! これだけやってれば制作進行として一人前だ!」ということはなく、これは「出来て当たり前!」の内容ということ。本書では、これらに加えてさらにプロジェクトの成否を分ける「暗黙の実務(目には見えない重要な仕事)」が紹介されている。

 「暗黙の実務」とは、例えば「コミュニケーション」「作品へのこだわり」「自分の思い」といった、習熟度に明確な基準がなく、答えがひとつでもなく、また互いに内容が矛盾したりするが、仕事の出来を左右する重要な要素のこと。著者はこれらを作品作りに反映できるようになるまでに6年かかった、という。

 例えば、作品のシナリオがアップされたときの「暗黙の実務」は、「シナリオを読むこと」だ。当たり前じゃない? と思うかもしれないが、実は制作進行は、シナリオをあまり読まないのだとか。制作進行はシナリオを読み込み、脚本家の想い、演出の意図を汲む。これらを理解することで、初めてカットの優先順位や必要な作業工程が理解できる。
その後の工程の絵コンテ・レイアウト・原画も同様で、UPされたらすべて「読むこと」が「暗黙の実務」。クリエイターの得意不得意踏まえてカットを割り振りしたり、物語の起承転結や見せ場を考えて、それに合ったクリエイターを配置することによって、作品のクオリティーが変わってくる。

 また、おおまかな映像のイメージを持って進めることで、原画が上がってきたときに、正しく絵コンテが読めていたか、作画の打ち合わせがうまくいったか、といった答え合わせができる。思っていた映像と違っていた場合、その原因を考えることで、再度打ち合わせをしたり、適切な担当に変更したりと、工程への影響が小さいうちに早めに対策を打つことができる。こういったこともクオリティーに影響する要素だ。

 また、同じく重要な「暗黙の実務」として、「原画マンや演出・作画監督とは、毎日顔を合わせて会話すること」が挙げられている。面と向かってコミュニケーションをとるのはもちろんのこと、体調や、仕事の状況、作品の印象など、多くの情報を直接会話して確認することが大切だという。

 会話するときには、顔色(体調)・机の上(スケジュール状況)・本棚(趣味)・お菓子(食生活)などをチェックすることで、多くの会話のキッカケをつくる。どんな作品が好きなのか? 将来どんな作品を作りたいのか?好きなクリエイター・絵・動き・演技は?スケジュールには固い人か? 生活時間帯は?…すべての内容は、直接フィルムの仕上がりに関係してくるのだそうだ。

 制作進行は、たくさんのクリエイターと繋がって仕事をしていく。こうやってコミュニケーションをすることで多くのクリエイターと繋がっている制作進行は、より幅の広い、懐の深い作品をつくることができるわけだ。

…本書では、他にもいろいろな「実務」と「暗黙の実務」が紹介されている。それにしても、アニメーションの制作進行に限らず、こういう「暗黙の実務」はどんな仕事にもあるように思う。「これ」という決まった答えはないけど、各人の経験から生まれる仕事の良し悪しを決める何か。「プロフェッショナリズム」という言葉にも近いかもしれない。アニメーションも、そうやって「暗黙の実務」にまじめに取り組む制作進行さんの力に支えられて、日々素敵な作品が生まれているわけだ。

文=村田チェーンソー