TEDxTokyoのプレゼンは、なぜあんなに聴衆を魅了することができるのか

社会

公開日:2014/6/24

 5月末に行われた「TEDxTokyo 2014」の感動が未だに胸の中に広がっている。TEDとは、“Ideas Worth Spreading”をコンセプトとして、「広げる価値のあるアイデア」を世界に発信することを目的にしたアメリカの非営利団体。そのTEDからライセンスを受けて、TEDxTokyoではあらゆる分野の一流達が東京でスピーチやパフォーマンスを行った。観衆を魅了してやまないアイデアの祭典・TEDxTokyoは一体どのような思いから日本で開催されることとなったのだろうか。TEDxTokyoの登壇者のような感動的なプレゼンを行うにはどうしたら良いのだろうか。

 『TEDパワー 世界と自分を変えるアイデア』(朝日新聞出版)では、パトリック・ニュウエル氏がTEDxTokyoを立ち上げた経緯や、より素晴らしいスピーチを登壇者に行ってもらうための方法等、イベントの裏側にも触れた1冊である。1991年より日本に住み、教育活動に携わっていたニュウエル氏は、日本の人々とアイデアを共有し、発展させ、学んでいく場を作りたいと思い、このイベントを立ち上げたのだという。

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 ニュウエル氏によれば、21世紀以降、変化の起きるスピードはかつてないほど速くなり、その変化に対応する能力として、「創造的知性」(Creative Intelligence)が求められるようになってきたという。ニュウエル氏にいわせれば、日本人は創造的知性が非常に高い。だが、控えめな性格や完璧を求めるメンタリティが、その発揮を阻んでいると感じられるという。アイデアは誰かに伝えてアクションを起こさなければ、ないのと同じだ。アイデアを広げる場を生み出したいと考えたニュウエル氏は、日本においてTEDxTokyoを立ち上げるに至ったのだ。

 日本人にとって、TEDは世界の素晴らしいプレゼンテーションを聴くことのできるイベントという印象が強い。しかし、プレゼンテーションという要素はTEDの中のほんの一面にすぎない。TEDの根幹にあるのは、あくまでも世界に広めるべきアイデアだ。

 TEDxTokyoでは、キュレーションを担当するニュウエル氏が、事前に登壇者候補となる人全員に会って、それぞれ1時間程度話をしている。しかし、これは登壇者の審査ではなく、プレゼンテーションのノウハウを指導する場でもない。ただ、登壇者の中にあるアイデアや話したいことを引き出すことに集中しているという。「あなたの夢は何?」「今あなたが興味をもっていることは?」「あなたにとって情熱とは?」登壇者にあらゆる質問をしながら、彼らとともにブレインストーミングを行い、今よりも良いアイデアがないか、意見を出し合うのだ。今までにたくさんプレゼンを経験してきている人ほど、すでに完成された資料を用意して、提案してくるが、大抵の場合、そうした提案からは、ひらめきは生まれない。「もうパソコンはとじて別の話をしよう」と話を切り替えることで今まで出て来なかったアイデアが生まれるのだ。

 たとえば、ブラインドサッカー(視覚障害者サッカー)のメンバー達と打ち合わせをした際には、ニュウエル氏自身も実際に目隠しをして建物の中を歩いてみた。そこで出てきたアイデアは「見えない時に何が見えるか」ということだった。信頼関係は目に見えないし、お互いにどれくらい信頼し会っているかを数値化もできない。しかし、相手がつまずかないように気をつけるといった行為は、はっきりと認識できる。もしそれが見えるようになったら、お互いの信頼関係を築くためのきっかけとなるかもしれない。実際に観客に舞台に上がってもらい、目隠しをして何かをしてもらったらどうだろうか。ガイド役をしてもらう方が良いかもしれないという風にアイデアを積み重ねてストーリーを積み重ねていったという。

 TEDで話されるトークに人々が感動を誘われるのは、登壇者のアイデアが優れているだけでなく、そのトークの内容を決めるのに、いくつものアイデアを出して、ストーリーとして人の心に届けようとしているためだ。素晴らしいスピーチを見ると、感動をする一方で、「人前で話すことが苦手だから自分にはあんなトークはできない…」と思う人も少なくはいなだろう。だが、気負う必要など何ひとつない。ニュウエル氏は本の中で、心理学者ケリー・マクゴニカル氏が行ったTEDトーク「ストレスと友達になる方法」を引き合いに出している。マクゴニカル氏によれば、ストレスは害であると思い込んだ人にだけ問題をもたらすのだという。同時に、ストレスから発せられるホルモンは社交性を高め、人と共感したい、助け合いたい、心の中にあるものを伝えたいと思わされる作用がある。つまり、人前で話すことにストレスを感じることはむしろ良い状態。自分の能力を高める第一歩なのだとニュウエル氏は日本人にエールを送っている。

 世界へとアイデアを広めることは、観客に驚きを与えるだけでなく、登壇者達にとってもアイデアを深化させられる経験となる。ただ見て感銘するばかりでなく、自分の創造性を喚起させ、アイデアを常に持ち続けるようにしよう。次のTEDxTokyoの登壇者はアナタかもしれないのだから。

文=アサトーミナミ