【Kindle開発者が思い描く「読書の未来」】読者が登場人物になって物語に参加?

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更新日:2014/7/1

人差し指を左右にシュッと動かし、タブレット端末をスワイプするマネをしながら「趣味は読書です」というと、未だに、未来人にでも出くわしたかのように驚かれる。「人差し指で本を読む時代になったか」「でも、やっぱり紙の本のが良いな」という声がちらほらと聞こえるのだ。電子書籍が広まりつつあるといっても、世の中はまだ紙の本を読む者が大半。ダ・ヴィンチニュースのアンケート(※)でも、電子書籍派は17%に対して、紙派は62%と、圧倒的な支持を集めている。とはいえ、電子書籍はこれから益々発展し、私たちの生活に身近な存在となっていくに違いない。一体、これから本はどのように進化するのか。紙派の者も魅了されるような仕組みは生まれるのか。私たちの読書体験はどう変わっていくのだろうか。

 『本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』(浅川佳秀:訳/講談社)では、AmazonのKindleプロジェクトのメンバーとして、スタートの段階から参加していたジェイソン・マーコスキー氏が「本」や「読書」の未来を大胆に予想している。

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 彼によれば、未来の読書は映画やビデオゲームに作者の本来的な意図を組み合わせたような形になる。たとえば、ロマンス小説の場合は、文章を読んで登場人物を理解するのではなく、読者が登場人物のひとりとなって物語に参加することができる本も可能だろう。小説は演出と台本が用意されており、読者はその台本に出てくる登場人物のひとりとして、当時の服を来て物語を体験する。歴史や倫理の授業も、教科書で出来事や事実に関する無味乾燥な文章を読むのではなく、実際に体験して学べるようになればずっと身近になる。本は通常、各行を順に追いながら読むものだが、ホログラム映像(空間に浮かびあがる立体映像)を活用した技術が開発されれば、いずれ本は心が躍る娯楽を体験するような形に変わっていくかもしれないと、マーコスキー氏はいう。今は、作者の脳内で繰り広げられる刺激的な体験が言葉として活字化され、人々はそれを読み解くことで興奮を味わっている。今後は作家の脳とコンピュータを高速ケーブルでつなぎ、頭のアイデアを直接デジタル・データに変換するような技術が開発される可能性すらある。同じ高速ケーブルを使って、読者と作者の体験が直接繋がることができれば、より読書体験は刺激的なものとなるだろう。

 とはいえ、読者と作者の脳を直接結ぶ技術は少し先の未来になりそうだ。その技術が開発される前段階として、AmazonやAppleは本について語れる読書クラブのような機能を組み込むことで、読書体験をより充実したものにさせようとしている。電子書籍を介して、身近な知り合いだけでなく、世界中の読者と本について語り合うことができる場を作ろうとしているのだ。1冊の本ごとにファンコミュニティのための「小部屋」が用意され、熱心な読者がテーマを設定して議論を進めていく。場合によっては作者自身が自分の本の小部屋に入って来て、読者の質問に答えたりすることもあるだろう。こうした機能があれば、ソーシャル・ネットワーク上を口コミが広がっていくため、書店側にもメリットがある。現時点でも電子書籍をひらいたままFacebookやTwitterにアクセスして内容を引用して投稿したりできるが、近いうちに特定ページ上で直接ほかの読者と会話を交わしたり、作者自身と意見交換したりできるようになるだろう。

 既に、出版前の早い段階で、本を何人かに読ませ、その読者も該当の本の編集工程に参加させるという手法を採っている出版社もいくつかある。この方法は、読者が求めているものを的確に内容に反映し、すぐに本としての品質を高めることができるし、読者は、自分の好きな作家の作品に意見を述べることができるという利点がある。これをマーコスキー氏はソーシャル上でできないかと考えているのだ。このようにして読者が作者とともに書籍制作に関わっていく場ができれば、読者と作者の距離はより近くなるに違いない。

 紙の本には紙の本の良さがある。だが、電子書籍も負けてはいない。電子書籍には無限の可能性が秘められているのだ。「紙」に印字されている「活字」だけが本を構成しているとは限らない。その向こうにいる読者や同じ本を読んでいる読者、そして、そこから得られる刺激的な経験もすべて「本」を構成する要素だ。あらゆる方向に、「電子書籍」は発展していくのだろう。紙だ電子だと区別せず、それぞれの良さを享受しつつ、未来永劫、楽しい読書ライフを送りたい。

文=アサトーミナミ

※アンケートの参照先はこちら
ダ・ヴィンチニュースの中の人と話す 電子書籍界隈の現状と今後について