遠隔転送装置に“スモールライト”!? 3Dプリンタの未来はどうなる?

社会

公開日:2014/7/4

 今年5月、インターネットから得たデータをもとに、自宅の3Dプリンタでお手製の銃を作ったとして男が逮捕された。皮肉な形でスゴさを世に知らしめてしまったが、3Dプリンタは今後、どんなふうに活躍するのだろう? デジタル工作機器に詳しく、次世代工学者として注目を集める田中浩也さんの著書『SFを実現する 3Dプリンタの想像力』(講談社)をひも解いてみよう。

 そもそも3Dプリンタとは、「通常のインクジェットプリンタに、さらにもうひとつ、高さ方向のZ軸を加えたような構造」になったもの。田中さんが自宅に2台目の3Dプリンタを導入したとき、その説明書を見て衝撃を受けたという。そこにはこう記してあった。

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「この3Dプリンタの電源を入れて、何よりも最初に出力してほしいものは、この3Dプリンタ自身の部品です。データはウェブサイトに公開しています。それを出力して大切に保管しておけば、壊れた際にもすぐに部品交換ができるでしょう」

 さっそくウェブサイトをのぞいてみると、そこにはバージョンアップ版の部品の最新データがズラリ。ソフトウェアの“アップデート”の概念が、いまや物理的な「もの」の世界にも浸透しつつあることを実感したという。

 そんな3Dプリンタの使い道について、本書で紹介された具体的なアイデアをいくつかご紹介しよう!

●「もの」を送受信できる“遠隔転送装置”
「たとえば子供が学校でつくってきた粘土の像を手元で3Dスキャンして、それを実家のお祖母さんにデータで送れば、お祖母さんの手元で3Dプリントして、同じカタチをちゃぶ台の上でも出力することができる――そうした方法でモノを別の場所に送り届けられるような技術です」

 まさにSFの世界だが、3Dプリンタはデータを扱うことから“拡大”や“縮小”もお手のもの。たとえば、ドラえもんのこんな道具も再現できるらしい。

●“スモールライト”や“フエルミラー”も実現!?
「3Dプリンタと3Dスキャナーがあれば、疑似的ではありますが、“スモールライト”や“フエルミラー”を実現できます。(中略)あるいは、音声認識と組み合わせれば“コエカタマリン”もつくることができます」

 もちろん、本体そのものを小さくしたり、増やしたりできるわけではなく、同じものがもう一個できるという話。田中さんの研究室では、ほかにも「ちょっとした思いつき」で面白いものが生まれている。

●富士山の地形データの“お椀”、惑星データの“小物置き”
「ネットからダウンロードした、富士山の3D地形データをさかさまに3D出力して“お椀”にしたり、惑星や衛星データを小物置きにしたりするといった遊びも私の周りではよく行われています」

 自然物、遺跡、地形データ、人物データ、ペットのデータなど、実世界の情報を3Dプリントでコピーするサービスも増えているという。たとえば、アメリカのスミソニアン博物館は現在、収蔵品の3Dデータを無料配布しており、日本ではホンダが自動車のデータを公開中。

 3Dプリンタがあれば、家庭で化石のミニチュアを作ったり、ミニカーを出力して遊べるのだ。今後もこういったデータ公開は増える予想されているというから、なんと楽しい未来だろうか! もちろん、扱えるのは樹脂だけじゃない。

●お米を使った“食べられる食器”、メッセージ入り“食パン”も
「私の研究室で動いている最新の3Dプリンタは、樹脂だけではなく、お米をはじめとした食材や、植物の入った土など、粘性のあるいろいろな材料を扱うことができる、自分たちで作った独自の機械です。(中略)この機械で、お米を使って、たとえば“食べられる食器”や“道具”“玩具”などをつくることができるようになりました」

 ほかにも3Dプリンタでチョコレートやグミを作ったり、レーザーカッターで食パンにメッセージを入れたりするサービスがすでに増加しているとか。材料を変えることでさらなる無限の可能性が広がっていく。

 本書を読めば、工作好きならずとも思わずネットで3Dプリンターをポチりかけること間違いなし。もちろん、各地にあるデジタル工作機械を備えた工房「ファブラボ」に足を運んでみるのも一興。物質そのものをもやりとりする新たな時代の幕開けを、きっと肌で感じられるはずだ。

文=矢口あやは