実は「ラブコメケンカマンガ」だった!? W杯決勝を前に、今こそ読みたい『キャプテン翼』

マンガ

更新日:2014/7/11

 いよいよ最後の盛り上がりを見せるサッカーW杯2014ブラジル大会。世界のトッププレーヤーたちが激しくぶつかり合い、スーパープレーが繰り出される。その原点にあるのは、日本が世界に誇るサッカーマンガのバイブル『キャプテン翼』(高橋陽一/集英社)だ。

 今大会で大ブレイクしたコロンビア代表ハメス・ロドリゲスも、アルゼンチン代表メッシも、スペイン代表のトーレス&イニエスタも、みんなキャプテン翼が大好きだ。イニエスタなんて、作品内の南葛中や東邦学園中のユニフォームを着てたりするほど!

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 世界中で愛される『キャプテン翼』は、W杯の盛り上がりとともに、電子書籍もヒットし、話題を呼んでいる。

 1981年という、サッカー不毛の時代に始まり、日本中にサッカーブームを巻き起こした「キャプテン翼」。オーバーヘッドキックやドライブシュート、スカイラブハリケーンといった必殺技は誰もが知っているが、実はこの作品の根っこにあるのは「ラブコメ」だと知る人は少ない。

 最初の週刊連載版は、大きく分けて小学生編、中学生編、ジュニアユース編の3つに分けられる。

 次々現れる魅力的なライバルたち。戦った相手と仲間になって、さらなる強敵に挑む、という少年マンガの王道展開。その一方で、中学編あたりから、少年マンガのもうひとつの王道「ラブコメ」が顔を覗かせ始める。

 小学校時代は、男顔負けの応援団長として翼を応援してくれた「あねご」こと中沢早苗は、中学ではおしとやかなサッカー部のマネージャーになる。そこに、後輩の杉本久美が現れ、2人の間に割って入ろうと、ウロチョロし始めたのだ。読者の大半は次の試合の展開が待ち遠しくて仕方ないのだが、高橋先生は割と多めにページを使って描くのだった。週刊連載はページ数少ないのに~!

 他にも、ライバルの三杉君や松山君の恋愛場面なんかもチラホラ交えちゃったりしながら、中学の全国大会を経て、フランス国際Jr.ユース大会へと物語は進んでいく。

 西ドイツの若き皇帝シュナイダーを筆頭に強力なライバルとの熱戦が繰り広げられる。どんどんプレーがインフレを起こして、超人サッカーレベルに達したあたりで読者も息切れし始めたが、Jr.ユース大会決勝戦の後に、ドラマは待っていた。

 伏線は、小学生編のラスト。全国大会で優勝したら、翼は元ブラジル代表のロベルト本郷と一緒にブラジルに渡り、プロ選手になるためサッカーを教えてもらうことになっていた。だが、ロベルト本郷は、網膜剥離で夢破れた自分の人生を翼に背負わせてはいけないと、単身ブラジルに帰国してしまい、音信不通となってしまった。

 そのロベルトが、国際Jr.ユース大会で優勝した翼の目の前に現れたのだ。翼は涙ながらに告げた。

「おれ、ずっと信じてた。サッカーをやってうまくなれば…必ずロベルトにあえるって─」

 翼の努力も、超人的なプレーも全部、サッカー少年として憧れたブラジル代表10番…大好きだった居候のロベルトに会いたい、その一心からだったのだ。筆者は、ここを読む度に号泣する。ああ、翼って中学生だったよな、サッカーって素晴らしいよな、と。

 そこで連載は終わると思っていた。だが、高橋先生は、ここから「ラブコメ」を本格的に開始するのだ!

 国際大会も終わり、帰国した翼に、後輩マネージャー久美が、とうとう告白。翼は「好きな人がいる」と返事し、久美はフラれるのだが、「早苗先輩に告白してあげてください」と涙ながらに訴えた。

 そんな矢先、翼に「恋のライバル」が現れる! ボクシング部の神田だ。早苗にフラれ続けても諦めない神田は、遂に翼と早苗を南葛光が丘公園に呼び出し、1対1の対決を迫る。翼は「中沢早苗は渡さない」と宣言。ボクサー神田の強烈なパンチを何発も浴びながら翼は、最後に─「うおおおおおおっ」。

 黄金の右足の一蹴で神田を吹き飛ばし、勝利するのだった。

 哀れ神田は─「これが世界を制したシュートか…一発で骨がくだけてやがる」と、左肩を骨折。

 世界大会優勝の後に、女を奪い合ってケンカするなんて…これが描きたかったんですか、高橋先生~! と、連載当時に悶絶したことを思い出す。連載前の読み切り版『キャプテン翼』は、中学生の翼太郎と若林源三が、幼なじみのアキちゃんを巡って、サッカーの試合に挑む、という話だったしなぁ。

 というわけで、その後、翼や神田がどうなったのかは、ぜひ本編を読んでいただきたい。

 グループリーグで敗退した日本のサッカーはまだまだ世界に遠いけれど、ジュニアユースで優勝した翼は、夢に向かって頑張ることは無駄じゃないと言った。

「日本のワールドカップ優勝、それは一生かなわない、はかない夢かもしれない…だけどおれたちは…いつまでもその夢に向かって走り続けます─」

 そう、今こそ世界一のサッカーマンガ『キャプテン翼』を読む時だ。

文=水陶マコト