花咲舞を演じた杏が語る、池井戸潤作品が次々とドラマ化される理由

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

池井戸潤原作『株価暴落』が織田裕二主演のWOWOW連続ドラマとして、今秋、放送されることが早くも発表された。いまやドラマ原作といえば池井戸潤。4月クールのドラマ『花咲舞が黙ってない』で主演を務めたも、その作品の魅力について『ダ・ヴィンチ』8月号にて語っている。

池井戸作品=働く男たちの物語。そんなイメージを軽やかに覆してみせたのが、ドラマ『花咲舞が黙ってない』である。原作は『不祥事』と『銀行総務特命』。前者に登場する池井戸作品唯一の女性主人公こそ、ドラマの題名にもなっている花咲舞だ。銀行の窓口係だった舞は、各支店のトラブルを解決する「臨店班」に異動。揺るぎない正義感で、行内の歪んだ体質を正してゆく。演じるのは、凛としたたたずまいが美しいさん。

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「私には会社勤めの経験がありませんが、このドラマを通じ、私が想像する以上にままならない現実があるんだなと感じました。そんな中、人が言えないようなことをキッパリ言ってのけるのが花咲舞です。働く現代人にとっての新たなヒロイン像だと思いました」

普段から、原作を読んで役に臨むというさん。もちろん今回も原作2冊を読み込んだうえで舞を演じている。

「原作も原作のファンの方も、どちらも大事にしたいと思って演じています。原作では、舞が張り手をする場面が衝撃的でした。映像化したらきつく見えないだろうかと案じていましたが、脚本はコメディにアレンジされていたので驚きました。“とにかく見やすいドラマ、明るいドラマを作ろう”というプロデューサーの意図があり、原作にはなかった舞のプライベートも描かれています。スーツ姿の中にフェミニンな印象が出るよう髪の毛を下ろしたり、ドジな一面を見せたり、上川隆也さん演じる上司の相馬ととぼけた会話をしたり、ドラマでは親しみやすさを意識しました」

池井戸潤さんとは、ラジオや雑誌で対談したことがある。

「池井戸さんは、原作の『不祥事』はマンガのようなつもりで書いたとおっしゃっていました。1話の完成前に対談させていただきましたが、『軽いタッチの作品は、どんなに一所懸命作ってもその努力まで軽く見られてしまう。評価されにくいかもしれませんが、がんばってください』と応援してくださって。原作をここまで膨らませていいのか迷いもありましたが、その言葉で背中を押された気持ちでした」

『花咲舞が黙ってない』の原作に限らず、他の池井戸作品も読んだことのあるさん。続々とドラマ化される理由を、こう分析する。

「池井戸さんの作品は、社会の大多数を占める会社員の方々の支持を集めています。共感できる部分が多く、社会への影響力も大きいのではないでしょうか。また、花咲舞をはじめ、主人公が魅力的ですよね。会社に限らず、学校、家庭でも言いたいことを言えない人は多いはず。気持ちを代弁してくれる主人公を見て、スッキリした気持ちになれるのが支持される理由かもしれません」

ドラマはすでに放送が終了したものの、動画配信サービス「Hulu」を利用すれば全話視聴できる。改めて、ドラマの見どころは?

「舞の成長譚でもありますし、各話ごとにテイストの違うお話が楽しめます。また、訪れる支店、放送時期に応じて行内の装飾品も異なるんです。例えば5月の初めに放送した4話は、母の日に合わせたエピソードですし、支店にはカーネーションが飾られています。細かい装飾まで凝っているので、チェックしてみてください。丸1時間の放送ですし、本編はすべてお芝居で構成されていてボリュームもたっぷり。ぜひオープニングからラストまで、じっくり楽しんでいただきたいです」

取材・文=野本由起/ダ・ヴィンチ8月号 「池井戸潤」特集