美と知が究極の融合! 「世界の図書館」を旅してみよう【最終回 自由闊達&モダン編】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

世界の夢の図書館(エクスナレッジ)』(エクスナレッジ)

世界中から選りすぐった37の魅力的な図書館を美しい写真で紹介する『世界の夢の図書館』(エクスナレッジ)。最終回は「自由闊達&モダン編」として、現代建築や最先端の技術を導入している図書館を紹介しよう。

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「シュトゥットガルト市立中央図書館」(ドイツ)

ドイツ南西部の工業都市で、ポルシェの本社があるシュツットガルト市。1997年、ドイツ鉄道の旧貨物駅跡のマイレンダー広場に図書館を建てることになり、14年という長い年数をかけて2011年に完成したのがシュトゥットガルト市立中央図書館だ。

図書館の建物は白い直方体(夜はブルーにライトアップされる)で、建物内も白で統一されており、コンクリートやガラスを使い、直線で構成されたデザインは清潔感に溢れている(堅牢かつ簡素に見えるため「刑務所のようだ」という揶揄もあるそうだ)。質感が統一され、そこに数多くの本が集まっている様は、まるで同じドイツの写真家アンドレアス・グルスキーの作品のようなパノラミックな感じを受ける。

写真は5階から上のギャラリーを撮影したもので、上に行くほど広くなるという吹き抜けを囲むようなデザインとなっているのがわかるだろうか。最上階にはカフェテリアがあり、シュツットガルトの景色を楽しめ、しかも21時という図書館としては遅い時間までやっているとあって、市民の憩いの場となっている。また「眠れない人のための図書館」というコーナーもあり、映画や朗読CDなどが24時間貸しだ出されるというちょっと変わったサービスもあるそうだ。

 

「バスコンセロス図書館」(メキシコ)

頭上に広がる書架に圧倒される特異な構造を持つのは、メキシコ・シティにあるバスコンセロス図書館だ。メキシコの新進気鋭の建築家であるアルベルト・カラチの設計による近代建築で、天井から吊るされた書架は6層あり、上から覗き込むとその圧倒的な収納力にめまいがしそうになるほどだ。

現在は一般図書57万5千冊などを収蔵しているが、さらに書架を増設し、100万冊まで収蔵可能な拡張性を念頭に設計されているという。また建物の周囲は168種、6万本もの植物がある植物園になっており、都会のオアシスのような環境になっている。

この「バスコンセロス」と言う名前は、ホセ・マリア・アルビノ・バスコンセロス・カルデロンというメキシコの教育者・哲学者・弁護士・作家・政治家・歴史家であり、1910~20年に起こったメキシコ革命後の文部大臣やメキシコ国立大学総長を務めた、現代メキシコのアイデンティティ形成に最も影響を与えた人物の名を冠したものだそうだ。

また写真中央、図書館の吹き抜けには世界的に有名なメキシコ人コンセプチュアルアーティストであるガブリエル・オロスコの作品であるコククジラの骨格オブジェが吊るされており、図書館のシンボルとして愛されてるという。

 

以上、『世界の夢の図書館』から世界各国の図書館を紹介してきたが、本書は「西ヨーロッパ/南ヨーロッパ」「中央ヨーロッパ/北ヨーロッパ」「北アメリカ/南アメリカ」「アジア/アフリカ/オセアニア」という地域別にまとめられ、各地を旅行するような視点でまとめられている。しかし残念ながら日本の図書館は取り上げられていない。

だが近年の日本でも、最先端の無線ICタグを導入し、1919年に建てられた赤レンガ倉庫をリノベーションした建物で2009年度グッドデザイン賞を受賞した東京都北区の「北区立中央図書館」や、カプセルのような近未来的な「プラネット」というミーティングスペースのある東京都武蔵野市の「成蹊大学図書館」、民間企業のTSUTAYAが運営し、図書館の分類とは違う並べ方をするなど様々な試みを行っている佐賀県武雄市の「武雄市図書館」、またクラウドファンディングで出資を募り、営業時間が18~25時で音楽を楽しみながら酒も飲めて無料で本が借りられるという、東京都渋谷区に先日オープンした「森の図書室」など、徐々に図書館のスタイルが変わってきている動きもある。

しかし文化というのは数年で簡単に根付くものではない。『世界の夢の図書館』を見ればわかるように、図書館というのは長い時間をかけて蔵書が増え、訪れる人や学ぶ人たちの叡智や、そこから溢れ出した思考などが徐々に蓄積して形作られていくものだ。そしてたくさん並んだ本には、ある種の凄みさえある。そんな一度は訪れてみたくなるような夢のような図書館、本書でぜひ見つけて欲しい。

文=成田全(ナリタタモツ)