【問題:日本に猫は何匹いますか?】 就活の面接でいきなり聞かれたらどう答える?

科学

公開日:2014/7/29

……という突拍子もないクイズを出されたとして、あなたならどう考えるでしょうか?「そんなの調査や統計を見ないとわからない」とか「ぜんぜん見当もつかない……」というリアクションは、至極普通だと思います。しかし、こういうとっかかりのない、直感では見当のつかないような荒唐無稽の数量を、知っている知識だけをもとに合理的な仮定とロジックを駆使して短時間で計算する方法があります。「フェルミ推定」と言います。

 フェルミ推定は、科学者の思考訓練ツールとして有効であると認められたことから、欧米の学校では理科系の教材として幅広く利用されています。また、最近ではコンサルティング会社や外資系企業での面接試験、一般のビジネスマン向けの教育ツールにも利用されています。『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート 「6パターン・5ステップ」でどんな難問もスラスラ解ける!』(東大ケーススタディ研究会/東洋経済新報社)は、東大生が戦略コンサルの受験対策で始めたフェルミ推定の研究の成果を紹介したものです。

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フェルミ推定には、5つのステップで進めて行きます。
(1) 前提確認
(2) アプローチ設定
(3) モデル化
(4) 計算実行
(5) 現実性検証

 表題に挙げた問題、「日本に猫は何匹いるか?」を例に各ステップを追っていきます。

 まず、(1)前提確認では「猫」をどのように定義するか、どのような「猫」を数えるのかを決めます。ここでは、「個人(世帯)が所有している猫」ということに限定したいと思います。

 (2)アプローチ設定では、基本的な計算式を設定します。
個人(世帯)が所有している猫の数=日本の世帯数(a)×猫の所有率(b)×1世帯あたりの平均所有数(c)
という式になります。

 このアプローチ設定の際には、「何を軸に考えるのか」を明確にしなければなりません。よく用いられる軸として「面積」「個人」「世帯」などがあります。この問題へのアプローチでは、式に「日本の世帯数」が入っているので「世帯軸」といえます。

 さらに、式の精度を上げるために(3)モデル化を行います。式の中の要素を分解していきます。

(a) 日本の世帯数:1世帯あたりの平均人数を3人(父・母・子供)と考えて、人口を1億2,000万人と仮定すると、1億2,000万÷3で、日本の世帯数は4,000万世帯。
(b) 猫の所有率:動物を飼っている世帯の割合を50%とし、そのうち、猫を所有している世帯を30%とします。猫の所有率は、50%×30%=15%。
(c) 1世帯あたりの平均所有数:1匹だけ所有している世帯を75%、2匹所有している世帯を20%、3匹所有している世帯を5%と仮定します。簡略化のため、4匹以上所有している世帯は排除。平均所有数は、1(匹)×75%+2(匹)×20%+3(匹)×5%=1.3(匹)。

……こうやって仮定の数字を、具体的なイメージ(実感)に基づいてつくっていきます。それぞれについて、「論理的な根拠」を提示できれば言うことなしです。モデル化の作業は、論理的に細かく分析するときりがないので、ほどほどにします。フェルミ推定では、短時間に、できるだけ正確で、聞いている人を納得させられる仮定を、よしとします。
いよいよ、(4)計算実行をします。
4,000万(世帯)(a)×15%(b)×1.3(匹)(c)=780万(匹)

 つまり、日本において「個人が所有している猫」の数は、780万匹、という推定ができました。

 最後に、(5)現実性検証をします。自分が設定した計算式の正しさや数の正確さをチェックします。計算結果がかなり正確だった場合、うれしい、というご褒美があります。
ペットフード工業会による第14回犬猫飼育率全国調査(2007年)によれば、2007年における猫の飼育数は1018.9万匹。上での計算はそれよりやや少ない数字です。同調査によれば1世帯あたりの平均飼育数(c)は、1.77匹ということなので、アプローチ自体は悪くなかったようです。

 このような方法で、「日本における電柱の数」(フェルミ推定では有名な問題)といった数字も、推定することができます。「日本における電柱の数」を聞かれることは、普通に暮らしていれば一生に一度あるかないかなので、一見実生活には役に立たなそうです。しかし、フェルミ推定のいいところは、冒頭でも紹介した通り、論理的かつ効率的に物事を考えられる力、いわゆる「地頭力」を鍛えられるところ。

 本書では30以上の例題と解答例で紹介されていますが、論理と仮定を組み上げてひとつの結論に達する過程は、シャーロック・ホームズの明快で論理的な推理を読んでいるような爽快感があります。

文=村田チェーンソー