“本の探偵”が選ぶ、大人になった今だからこそ読みたい児童文学

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

子どものころに観た映画を再び観る機会があった。当時は退屈にすら感じたのに、大人になった今は一つ一つのシーンに意味があり、こんなに深い作品だったのか感心させられた。そんな経験があるのは筆者だけではないだろう。

児童文学でも同じことが言える。『今こそ読みたい児童文学100』(赤木かん子/筑摩書房)では、児童文学評論家の赤木かん子さんが、大人になった今だからこそ読みたい児童文学を100冊紹介している。

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著者の赤木さんは、子どものころに読んでタイトルや作者名を忘れてしまった本を探し出す“本の探偵”をしている。本書にはその探偵依頼が多かった作品などが紹介されている。

赤木さんが“本の探偵”としてたくさんの児童文学を読んできたなかで、物語好きの大人が読んで面白いと思える作品を選んだという本書。その中からこの夏オススメの児童文学をピックアップしてみた。

■『エヴァが目ざめるとき』(ピーター・ディキンソン:著、唐沢則幸:訳/徳間書店)
10代の美少女が目覚めるとサルになっていた! というショッキングな出だしで始まる本書。
エヴァはある日、交通事故にあって体がぐしゃぐしゃになってしまう。父が研究していたこともあり、エヴァの意識だけをサルの脳に移植する手術を行った。状況が落ち着いてくるとエヴァは自分が入り込んだことでサル本体の意識はどうなったのか考え始める。自分はこのサルを殺したことになるのか? これからどうやって生きて行こう? サルとして? 人として? などと真剣に悩むのであった。

■『マツの木の王子』(キャロル=ジェイムズ:著、猪熊葉子:訳/フェリシモ)
松の木の王子と、身分の低いシラカバの娘のラブロマンス。
王子の両親である王と王妃から身分違いだと反対された2人は、人間に切られ一緒に森を出る。2人は木工屋のおじいさんに引き取られ王子は木馬の馬に、少女は銀のシカになる。そのままおじいさんの家で幸福に暮らすはずだった2人だが、おじいさんは病気になってしまう。薬代のために売られる覚悟をした2人は、メリーゴーランドの木馬になる。しかし、悲しいことに反対側につけられてしまったため何十年も相手をちらっと見ることしかできなくなってしまった。しかし、2人の愛はその後ずっと冷めることはなかった。

■『ふしぎな国への旅』(メリー=Q=スティール:著、矢野徹:訳/講談社)
洞窟の中の川を何十ものいかだで流れながら、日々暮らしている部族の不思議な話。
部族の若者が目の前の岩を見てこの岩は以前見たことがあると思い、その岩に印をつける。1年ほど経って、彼は再び印がついたその岩の前を通った。彼はおなじところをぐるぐる回っているのだと気付いてしまう。しかし、大人たちは彼の発見を嫌がった。「だからなんだって言うんだ!? どうしろって言うんだ!」と。同じことを繰り返す毎日のどこが不満だという大人と、それでは納得できない子どもとの心の摩擦を描く。

子どものころに児童文学を読んだ人も読まなかった人も気になる1冊があるに違いない。この夏の読書、児童文学という選択肢もあるのではないだろうか。

文=舟崎泉美