彼女はなぜハマったのか? 人生を変えた「食虫植物」と「昆虫食」の魅力を語る!【後編】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

今から9年前、偶然出会ったハエトリソウに魅了され、食虫植物の虜となった木谷美咲さん(詳細はインタビュー【前編】へ!)。しかし2010年、とある会合で虫を食べる美女に出会い、また新たな扉を開けてしまう…そのきっかけとなった美女は、昆虫食への愛と魅力を紹介した『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(ムシモアゼルギリコ/カンゼン)の著者、ムシモアゼルギリコさんだった!

「ギリコさんは私の隣に座っていたんですけど、彼女が“面白いものを見せてあげる”とスマホを差し出してきて、見てみるとそこに映っていたのはマダガスカルゴキブリのお粥だったんです! 私はもともと虫は嫌いではない、というか好きだったんですけど、これには驚きましたね! それで私が食虫植物マニアだと知ると、“今度イベントをするので一緒にやりませんか?”と誘われて、ご一緒したのが“奇食の宴”というイベントだったんです。当日はマダガスカルゴキブリとウツボカズラの天ぷらをコラボして、大好評でした!」

advertisement

そこで木谷さんはムシモアゼルギリコさんと、『昆虫食入門』(内山昭一/平凡社)の著者である内山昭一さんとトークショーを行い、昆虫食に興味を持って意気投合! その後、木谷さんは内山さんが主宰する「昆虫料理研究会」に参加、毎月研究会が開催している「昆虫食のひるべ」で虫料理のレシピを考えることに。

「父が料理好きで、幼い頃から仕込まれていたので、料理は好きだったんです。虫を食べることも、特殊という意識はなかったですね。とにかく私は珍しい人やものに出会うのが大好きで、そういう自分の知らない世界で手探りで何かをやりたがるタイプなんです。だから虫という新しい食材を使って、まだ誰もやっていない料理を作り出すことは、伸びしろがあって工夫のしがいがあることで、料理心に火が点きました! そこでふと思ったんですけど、人間が集まって狩りをしないと捕れない大きな哺乳類などではなく、植物や魚、そして昆虫といった自分ひとりの力で採取できるものを食べるのはごくごく当たり前のことで、農業が始まる時代まで、人間の祖先がやっていた“腹塞ぎ”なんだなと思ったんです」

その研究会で集まった膨大なレシピから厳選した美味しい50品の料理を掲載しているのが、日本初となる昆虫料理本『「人生が変わる!」特選昆虫料理50』(木谷美咲、内山昭一 撮影:山出高士/山と渓谷社)で、調理とフードコーディネートはすべて木谷さんが担当しているそうだ。昆虫は見た目やフォルムがダメという人が多いので、本書はすり潰したりエキスを使ったりした「見た目にやさしい昆虫料理」から、見た目も一緒に楽しむ「素材を活かした昆虫料理」、自分で捕まえてきた虫を調理する「野趣を楽しむ昆虫料理」などに分かれていて、昆虫料理初心者も気負わずに始められる1冊に仕上がっている。

「本屋さんがこの本をどのコーナーに置いていいか悩むみたいですけど、個人的にはぜひ料理本コーナーに置いて欲しいですね!」という木谷さんに、本書の中からオススメの昆虫料理メニューを教えて頂いた!

■その1「コオロギ入り豆腐ハンバーグ」
ヨーロッパイエコオロギを叩いて粗みじん切りにし、豆腐と混ぜてハンバーグにした初心者向けの「見た目にやさしい料理」です。肉の代わりに使ったヨーロッパイエコオロギは色が淡くて身が柔らかく、火を通すことでとても香ばしくなります。脂肪分とカロリーも控えめなヘルシー料理です!

コオロギ入り豆腐ハンバーグ

 

■その2「バッタフライ」
秋が旬のトノサマバッタを、羽を閉じたり広げてみたりなど色々な形にして、パン粉をつけて揚げてみました。バッタにはエビやカニと同じキチン質があるので、熱を加えると赤くなり、味もエビそっくり。なので私たちは、バッタを「陸(おか)エビ」と呼んでいます。余分に捕獲してしまっても大丈夫。冷凍保存も可能です!

バッタフライ

 

■その3「カイコ尽くし丼」
カイコの卵、幼虫、蛹、成虫をすべて使い、さらにフン茶(幼虫のフンを煮出して作ったお茶で、漢方では「蚕沙」と呼ばれます)で米を炊いた、私が考案した中でも珠玉のメニューです! 本当はカイコの餌である桑の葉にすると「カイコ尽くし丼」として完璧なのですが、本を作った時期には葉がなかったので、ここではシソで代用しています。

カイコ尽くし丼

 

また昆虫料理研究会は夏になるとセミ(成虫と幼虫)やバッタなどを捕まえ、その場で調理するという「キャッチ・アンド・イート」のイベントも開催しているそうだが、「普通に捕まえようと思うとすぐに捕まるんですけど、食べようと思って捕まえようとすると、虫って逃げるんですよ。やはり殺気を感じているんですかね?(笑)」と言う木谷さん。しかしこうして捕まえられる昆虫以外は、手に入れられる場所が中華やアジア系の食材店などに限られており、少々値段が高いこともあってなかなか気軽には食べられないそうで、木谷さんは「今後は日常的に昆虫が食べられるようになって欲しい」と願っているそうだ。

「虫を食べるというと、昆虫好きな人から“野蛮だ”“かわいそう”などと言われるのですが、それを言ってしまったら、人間は何も食べられなくなりますよね。なので私は、食べることで私の体の一部となって、私とともに生きてください、と思っているんです。また最初にハマった食虫植物は、植物が虫を捕食しているところが、私の身体感覚に訴えてくるものなんです。そうやって虫を食べて、食虫植物を見ていると、“私、生きてる!”って感じるんです!」

木谷さんのハマったものは一見奇異に感じるが、結局は生きるものすべての根幹である「生きることは、食べること」につながっているのだ。それは木谷さんを救い、新たな人生の扉を開けた。さあ、あなたは何にハマりますか?

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

 

食虫植物&昆虫料理愛好家 木谷美咲さん
木谷さんがかぶっているのはトレードマークの「ハエトリソウ」を模した革製の帽子で、これは二代目だそうだ。「初代の帽子には感覚毛がなくて、マニアの方に『感覚毛がないハエトリソウなんて、ダメだよ!』と指摘されて、わざわざ作り直したんです(笑)」 そのハエトリソウが主人公の子ども向け絵本『ハエトリくんとふしぎな食虫植物のせかい』(木谷美咲:作、ありたかずみ:絵/VNC/星雲社)も好評発売中。