嫌われたくない人にこそすすめたい「嫌われてもいい」という坂上忍節

芸能

公開日:2014/8/18

 「ブスは嫌い」――公共の電波を使ってそう言い放ち、注目を浴びた坂上忍。子役から数えて芸能生活43年の彼は、それ以外にも「働きたくない」「ブスは表に出るな」など毒舌とも取れる発言をしている。

 決して「いい人」とはいえない発言を繰り返すのに、なぜ彼は「炎上」せず、仕事を干されることもなく、かえって一定以上の人気を保ってテレビ番組に露出しているのだろうか。

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 その秘密を垣間見ることができるのが、坂上忍著『偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方』(講談社)である。

 一般的に、嫌われたいと思いながら生活している人は少ないだろう。できれば自分とかかわりのある人からは好かれたいと思うのではないだろうか? そのため、場の空気を壊さないように「空気を読んだ」発言をし、批判的なことは言わない。

 自分を押し殺して相手に合わせる。自分の考えとは異なる意見を周りが求めれば、その場で求められている意見を口にする。怒らせるような言動を相手が取ったとしても、不快感を顔や声色に出さず対応する――誰にでもこういった経験はあるだろう。

 そうしてしまう動機が前述の「好かれたい」という気持ちだ。では、本当に「いい人」を演じていれば誰からも好かれる人でいられるのだろうか?

 答えは「否」だ。坂上氏は次のように本書の中で述べている。

「なにか発言するなら、周囲が“どうせこれぐらいまでしか言わないだろ”というレベルを軽く飛び越えてみせる。……そこまでいくと周囲も敏感に反応するので、“いま、この場にいるみなさんはすごく引いていらっしゃる”と察知できます。そういう経験を積むことで、本当に嫌われないラインというのが自然とわかるようになっていきます。好かれることしか考えていない人は、どこまでいったら嫌われるかの経験則がないから、そのラインがあまりにも低く設定されてしまっています」

 単なる「いい人」でいれば、摩擦を生まないかもしれないが印象に残らないため好かれることもない。嫌われるギリギリ手前の言動を取るなら、周囲の印象に残り、かえって好かれることもある、というのだ。

 坂上氏自身、30代の頃には「いい人プロジェクト」を実施していたという。それは、自分にとって気に触ることがあっても常に笑顔で優しく接するというもの。それによって人間関係がスムーズになるのでは? と考えたからだそうだ。しかし結果は気に触る言動をする人のことを許せない自分がおり、それがどんどん蓄積され、ドス黒い感情となって爆発してしまうというものに。

 それならば、普段から言うべきことや言いたいことを言ったほうが自分にも周囲にもいいのではないか、と結論づけ、現在のようなスタンスになったという。そして、言いたいことを言う権利を獲得するため自分の中で最低限のルール――仕事人として時間を守り遅刻をしないこと、役者としてセリフを完璧に覚えておくこと――を守ることを課しているという。なるほど、そういうところが「坂上忍」が毒舌家として知られているにもかかわらず、芸能界である意味人気を保って使われている理由なのかもしれない。

 本書は彼の好きな「博打」から唐突に始まるため、ギャンブルの嫌いな人であればそれ以上読まないだろう。また、ケチを付ける人を挑発するかのような「そんなの余計なお世話です」という彼の言葉のために本を閉じる人もいるかも知れない。

 そうであっても、彼は決して自分の生き方を理解してもらいたくないわけではないのだ。むしろ本書を読み自分を理解してもらうことで、「嫌われること」への恐れを抱いてビクビク過ごす人たちを助けたいと思っているのではないだろうか。

 もちろん、「偽悪」をすすめているからといって、わざと心にもない悪態をつく必要はない。自分を偽らずさらけ出すことを恐れない生き方をすすめている書籍なのだから。

文=渡辺まりか