強くて優しい清武弘嗣が詰まった1冊 「何かを与えられるよりつかみにいったほうが強くなれる」

スポーツ

公開日:2014/8/22

 初めてのフォトエッセイらしい。イケメンの部類に入るアスリートにふさわしく爽やかな装丁で、表紙の斜め上を見やる表情からして見る側をホワッとさせる。今年25歳。日本代表として活躍する清武は、ドイツのニュルンベルクのクラブチームに所属。撮影場所もすべてドイツだ。

 写真はどれも素敵だし、綴られている言葉もストレートでわかりやすい。さらりとパンフレットかファッション誌のページでもめくるように見てしまいそうだが、中身はトップアスリートの素顔と本音が包み隠すことなく語られている。柔らかく見えて、実は骨太。清武らしさが体現されている。

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「神様にひとつだけ才能を貰えるなら?」と聞かれたら
「いらない」と答える。
ひとつ貰ったら、これもちょうだい、
あれもちょうだいって欲が出そうだから(笑)。
それに、なにかを与えられるより、
ラクをせずに自分でつかみにいったほうが強くなれると思うから。

 森を歩く清武の写真とともに綴られている言葉だ。スーツから伸びた脚は決してファッションモデルのようにスラッとはしていない。がっちりとたくましい脚が、足元を踏みしめるように歩を進めているのが印象的な1枚だ。

 日本でサッカーエリートとしてキャリアを積んだ清武は、現在ドイツのクラブチームでも中心選手として活躍している。だが“エリート”といっても、常に激しい競争にさらされ、ガムシャラにやってきたからこその地位だ。ドイツに渡り、ニュルンベルクでレギュラーも確約された。すると、「どこかで自分の慢心につながっているはずだし、成長の妨げになっている」と、自らを叱咤激励する。「ドイツにきて楽しいことと辛いことのどっちが多い?」と聞かれたら、間違いなく後者だと答えると明かしながら、「そう思うからこそ絶対に逃げない」「腹を据えて向き合う」「日々、自分との戦いを続けている」と言い切る。

 かと思えば、「僕は究極の寂しがり屋だ。おそらく、ずっとひとりでいたら…冗談ではなく、本当に寂しくて死んでしまう気がする(笑)」「究極の人見知り」と弱みを語る。同じく日本代表でセレッソ大阪時代のチームメイトだった山口蛍と親しくなったきっかけも不器用そのもの。1つ年下の山口に敬語で話しながら、部屋に押し掛けては泊まっていき、気がつけば兄弟のような存在になっていったという。

 強さも弱さもさらけ出しているのは、どちらにも向き合っているからなのだろう。本書には清武の「もっとこうありたい」というあくなき向上心とともに、「ここが自分のダメなところ」「それならこうすればいい」という試行錯誤もそのまま綴られている。

 辛いこともダメな部分も向き合って進む原動力には、家族の存在がある。幼い頃から支えてきた両親や兄弟、今を支える奥さんや2歳になる息子・真駿くん。「息子に胸を張れる、いい父親でありたい」という清武。愛する人たちに愛され、どこまでも強く優しい親へと成長していくのだろう。「ありがとう」が大好きな言葉のひとつという清武は、周囲の人への感謝の気持ちも忘れない。これからも様々な人たちの支えを糧に、選手としてもさらなる輝きをみせてくれるに違いない。

 本書は、胸に沁みるヒューマンドラマ映画のように、ふとした時に何度でも見返してみたくなる。切り取られたシーンと言葉が真実味と優しさにあふれているからだろう。清武というイケメンアスリートはやはりドラマにも画にもなるのだ。

文=松山ようこ(スポカルラボ)