授業も仕事も本当はサボりたい…。読者の気持ちを代弁する「サボり漫画」が人気

マンガ

公開日:2014/8/25

 通学・通勤のために、毎朝乗り込む満員電車。窓の外を流れる、代わり映えのしない風景。車内には、疲れきった表情の見慣れた人たち。ふとした瞬間、「あー、このままサボりたい……」なんて言葉が脳裏をよぎる。こうして文字にするとなんとも悲惨な光景だが、多かれ少なかれ、みなさんも似たような日々を送っているのでは? はい、かくいう僕も、そのひとりです。

 とはいえ、本当に“サボる”なんて大胆なことはできない、日本人の悲しき性。そんな日本人の勤勉さの裏をかき、大勢の人たちから共感されているマンガがある。それが『となりの関くん』(KADOKAWA メディアファクトリー)。累計発行部数は250万部を突破し、今年1月~3月までアニメ版も放送された人気作だ。

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 本作は、“関くん”という男子生徒が、“授業をサボって”こっそり遊ぶだけ、というシュールなコメディ。しかしながら、“授業をサボる”という、イケないことをしている関くんの姿は、読者の背徳感にも似た感情を煽り立てる。「そうそう、そんなことしてみたいんだよね」。大ヒットの裏側には、主人公に対する憧れも見え隠れする。

 そしていま、『となりの関くん』の大人版ともいえる新しいサボリ漫画が、注目を集めている。『受付の白雪さん』(吉沢緑時/双葉社)だ。

 本作のメインキャラクターは、受付嬢の白雪さんと田中さん。いつも微笑みを絶やさない白雪さんの奇想天外なイタズラと、それに翻弄されつつもなかば楽しんでいる田中さんの姿がユーモラスに描かれている。しかも、2人は終始受付デスクに座ったまま。まるで水鳥のように、水面下で繰り広げられる一進一退の攻防(?)が見ものだ。

 業務の合間に白雪さんが興じる遊びは、まさに多種多様。あるときは、デスクの下で田中さんに「ジェンガ勝負」を挑む。シーンとしたロビーで崩してしまったら大変なことに……と思った矢先、ガシャーン! と大きな音をたててジェンガを崩す白雪さん。「バレたらクビになりますよ」と及び腰の田中さんに、「勝ち逃げ反対」と、勝負の続行を強要する始末だ。

 また、あるときは、田中さんにこっそりと一口シュークリームを差し出す。喜んで口にすると、そこにはワサビが入っており、悶絶する田中さん。もしや、ロシアンシュークリームなのでは、と思いつつも、「次こそは!」と何度も口に運び、そのたびあまりの辛さに悶えることに。結果として、「合いますよね、ワサビとシュークリーム」と、白雪さんの独特の味覚が露呈され、イタズラでもなんでもないことが判明するのだが、それにすら翻弄される田中さんが少し不憫な気も……。

 しかし、決して田中さんを困らせるだけじゃないのが、白雪さんの魅力。しつこく田中さんに言い寄る男性社員を「ラジコンヘリ」で追い払ったり、上司に怒られた腹いせに八つ当たりしてくる営業マンを「呪いのワラ人形」で撃退したりと、彼女なりのやさしさも垣間見せるのだ。まあ、本当に「彼女なり」すぎるのだが、それはご愛嬌。

 このように大胆不敵な白雪さんとあたふたする田中さんに、いつしか読者は引き込まれていくだろう。そうはいっても、社会人で、しかも会社の顔でもある2人。来客対応はきっちり行い、社内外を問わず、大勢の男性をトリコにしている抜け目のなさは見習いたい点だ。やはり、社会人は仕事をこなしつつ、見えないところで遊ぶのが“サボり”の美学なのかも。

 普段抑えている欲求を叶えてくれる“サボり漫画”の主人公たち。勤勉な日本人にとっては、ある種、心のオアシスともいえるかもしれない。さて、それでは今日も、真面目に働きますか!

文=前田レゴ