100巻超えは11作! 日本のご長寿マンガはなぜ続く?

マンガ

更新日:2020/8/6

 長寿マンガ。今をときめく人気作とは異なる、息の長い支持を得るマンガである。その中には単行本100巻を突破する作品も。年間4巻として25年、生まれたての赤ん坊がオトナになるまでずっと、雑誌の顔として君臨してきたマンガ界の怪物たちだ。どんな作品があるのか、なぜそんなに続くのか。『ダ・ヴィンチ』9月号ではライター・北尾トロが読破合宿を敢行。その理由と魅力に迫っている。

 日本で単行本100巻超えのマンガは11作品(wikipediaより シリーズものは除外)。最高は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、最新の記録達成は『あさりちゃん』となっている。一見してわかるのは青年マンガ誌の大健闘。低年齢層向きは『週刊少年ジャンプ』1、『週刊少年マガジン』1、学年誌1で、残りは「ビッグコミック」系が4、『モーニング』『漫画サンデー』『週刊漫画ゴラク』『週刊ポスト』各1となっている。週刊ポストって……マンガ雑誌ですらないよ。内容もスポーツ、時代物、グルメ、極道と、はっきりした傾向がある。

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 何か。オヤジ臭さである。100巻超えマンガのメイン読者は社会人の男、とくにオヤジ世代と言い切ってもかまわないだろう。特徴は、オシャレな場所がとことん似合わないことだろうか。青山にあるカフェの本棚に『クッキングパパ』がずらりと並んでいたら、空間は確実に壊れる。

「強烈な存在感があるということですね。100巻超えマンガは、定食屋とか散髪屋とか、男が何かしながら時間つぶしに読むのが似合います」

 そうだよ編集K。ラーメンでも食べながら、退屈しのぎに読み、後を引かずに席を立つ。そして再びその店に来たとき続きを読む。多くの男には、自費で毎週買う雑誌の他に、置いてあれば読む系の、密かなひいき作品があるのだ。

「単行本がずらりと並んでいる喫茶店とかありますもんね。どうせ行くならマンガが揃っているあの店って感じで行き、ついつい読んでしまう」

 そこで読みたいのは、すぐ完結する作品ではなく、汲めども尽きぬ泉のように、いつ行っても未読巻のある大長寿作品。私が思うに、その魅力の根源は……。

「画力ですか、キャラ設定ですか。あるいは物語性、時代の雰囲気を捉える嗅覚?」

 アバウトさだと思うんだよ。たまに読んでも楽しめたり、細かい登場人物を忘れても平気だったりするんじゃないか。毎週が山場の連続だったりしてみろ、作者も読者も疲れてしまうよ。人気もなあ、一番でなくてもいいんだ。そのマンガがあることで全体が締まるというか、雑誌の象徴になるというか。

「……作者が聞いたら怒りますよ。詳しい人に話を聞きに行きましょう」

 なぜ長寿マンガがおもしろいのか、マンガ研究家の中野晴行さんに尋ねた。

「ひとつには、作家、アシスタント、担当編集者がひとつのチームとなっているため、モチベーションが保ちやすいと考えられます」

 それが何を生むのか。安定感だと中野さんは言う。ひとつの作品を長年やっているとマンネリに陥りそうなものだが、本当にマンネリ化してしまえば読者に飽きられてしまう。100巻超えマンガはギリギリのところでマンネリを回避し、安定感という強い武器を手に入れた作品たちなのだ。私の印象、当たらずとも遠からずじゃないか。

「テレビの『水戸黄門』じゃないけれど、基本パターンが出来上がり、ある種の“お約束”が成立したマンガは長続きします。読者も流れがわかっていて、安心して楽しむ。基本的にはその繰り返しで、延々とやっていける。編集者は“ぐるぐるマンガ”と呼んでいます」

 話がぐるぐる回っているので、半年ぶりに読んでも十分ついて行ける。読み切りでテンポよく進むならなおさらだ。この仕組みが作者と読者で共有できれば、あとはときどきキャラを入れ替えたり、実験的要素を加えてもいい。連載に追われて新作が描けないストレスも、作品の中にぶちこんでいくことができるってことか。なるほどなぁ。

「そのためには早い段階でキャラを確立させること。のんびり続いているようで、読み返すと5巻くらいまでは密度が濃く、その後のすべてが集約されている。だから後々まで読者を引っ張れるんです」

 オヤジ向けマンガが多いのは、サラリーマンの日常と、決まったサイクルで発行されるマンガ雑誌の波長が合うためだそうだ。決まった日にマンガ雑誌を買うのが生活に溶け込んでいる読者にとって、大長寿マンガは日常そのもの。刺激的な作品はほかにいくらでもある。ずっと付き合う相手に求めるのはクールジャパンでもグローバルでもなく“いつものヤツ”なのだ。

「だから、長く続いたマンガを終えるのは、雑誌にとって恐怖なのです。なんとなく読んでくれていた人たちが、連載終了を機に離れたら、たちまち危機がやってくる」

 

 マンガ読者の高齢化が進む中、長寿マンガは今後も増えていきそうだ。

●100巻超えマンガリスト 
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(1~191巻) 秋本治
『ゴルゴ13』(1~173巻) さいとう・たかを
『クッキングパパ』(1~128巻) うえやまとち
『ミナミの帝王』(1~127巻) 原作:天王寺 大、作画:郷 力也
『美味しんぼ』(1~110巻) 原作:雁屋 哲、作画:花咲アキラ
『弐十手物語』(全110巻) 原作:小池一夫、漫画:神江里見
『静かなるドン』(全108巻) 新田たつお
『あぶさん』(全107巻) 水島新司
『はじめの一歩』(1~107巻) 森川ジョージ
『浮浪雲』(1~103巻) ジョージ秋山
『あさりちゃん』(全100巻) 室山まゆみ
※巻数は2014年8月21日現在

取材・文=北尾トロ/ダ・ヴィンチ9月号「走れ!トロイカ学習帖」