“在宅オタ×現場オタ” アイドルオタクのリアルを描いたマンガ『ミリオンドール』が話題【著者・藍さんインタビュー】

マンガ

更新日:2014/8/25

 アイドルを取り巻く世界は、2010年前後を境に劇的な変化を遂げた。戦国時代と呼ばれたのも今や昔のようで、過渡期へ差しかかっているようにみえる。分類上の定義は様々であるものの、全国的に広く知れ渡るメジャーアイドルや、ライブで地道に実力を高めていく地下アイドル、地域に密着したローカルアイドルなど、挙げればキリがないほどに、たくさんのアイドルが現在もひたむきに活躍している。

 そして、社会的にみても、アイドルへの興味や関心も広まっているように思える。アイドルをテーマにしたコンテンツは増え続け、活字や映像を通して様々な視点から語られているが、無料のWebマンガ『ミリオンドール』は、従来とは異なる視点から描かれた作品として話題を集めている。

 2013年12月から無料の新作マンガ配信サービス『GANMA!(ガンマ)』で連載を開始した本作では、アイドルの成功までの軌跡を辿るだけではなく、自宅からアイドルを応援する「在宅オタ」、ライブという名のいわゆる現場へ積極的に足を運び続ける「現場オタ」の視点も取り入れ、アイドル本人や運営側の内情までを緻密に表現しながら、アイドルを取り巻く現実を、ときに生々しく描いている。

advertisement

 アイドルを愛してやまないドルオタのみならず、わずかでもアイドルへ興味や関心を持つ人であれば様々な感情を巡らされるであろう本作。著者の藍さんに、作品誕生までの経緯などを伺った。

 藍さんがアイドルへ傾倒しはじめたのは、2009年。友人からAKB48・ひまわり組の公演に誘われたのがきっかけだった。現場で見たアイドルたちの魅力に惹かれ、やがて、メジャーアイドルから地下アイドルに至るまで、単独ライブやフェスなどへ積極的に足を運ぶようになったそうだ。これまで見てきた現場は、多いときで年間に約100カ所以上。みずからの目や耳、そして、一人のファンとして現場の熱気を全身で体感してきたという。

 インタビュー中の受け答えからも、アイドルへの思いや情熱がひしひしと伝わってきたが、自身がマンガ家として、アイドルを取り巻く世界を描くようになったきっかけは何だったのだろうか。

「元々は、『ルートM』(コミックスマート(株)が手がけるマンガ家の育成・輩出を目的とした新人マンガ家支援プログラム)へ応募したのがきっかけでした。応募書類には『アイドルものを描きたい』と記載していたのですが、『GANMA!(ガンマ)』(現在、藍さんが連載中のマンガ配信サービス)の編集長から“アイドルにバトルを組み合わせたモノを作って下さい”と言われたんですね。その後、面談のときに『ミリオンドール』の原案を企画書として提出しました」

 10代の頃にマンガ家としてデビューしていた藍さん。しかし、『ミリオンドール』執筆までは数年間の空白があったという。インタビューの際に、応募当時の企画書を拝見したが、本作の軸となる「在宅オタ」と「現場オタ」という対比、そして、メジャーデビューを夢見る中で葛藤を抱くソロアイドルとユニットアイドルという構図がすでに確立されていた。

在宅オタのすう子。Webを駆使してロコドル・イトリオをメジャーへ押し上げようと画策する
(C)藍/COMICSMART INC.

 しかし、在宅オタと現場オタという表現は、ドルオタにとってある種のタブーとも思える。時には敵や味方のような構図で、互いの優劣を競い合うような議論の火種になりかねないからだ。あえてその対比を描いた理由を、藍さんは次のように語ってくれた。

「企画当初から、アイドルの実情をとにかくリアルに描きたいという思いがありました。その上で、アイドルを支えるドルオタの存在は必須だったんですね。そして、編集長からの“バトルもの”という要望を反映させるためにどうするべきかを考えたとき、在宅と現場での対比を描こうと思いました」

 さらに、キャラ設定について次のようにも。

「在宅オタのすう子は、熱心なドルオタではない人たちの分身になってほしいと思って描きました。アイドルへの興味や関心が広がった今、自宅で何となくアイドルを追いかけている人たちも少なくないと思うんですね。現場へ足を運ぶ人たちだけではなく、自宅から応援する人たちも現在のアイドル文化を支えているという思いもあり、より多くの方に共感してもらえるように設定を考えました」

現場オタのリュウ。ソロアイドル・マリ子を、現場の仲間たち巻き込みながら応援する
(C)藍/COMICSMART INC.

 在宅オタと現場オタの対比が描かれる一方、本作では、アイドルたちの実情にも鋭く迫っている。事務所からの独立を余儀なくされながらもメジャーをめざすソロアイドル・マリ子や、メジャーデビューに近づきながらもファンとの距離が離れることに葛藤を抱くロコドル・イトリオを通して、けっして順風満帆ではなく、それぞれの立場にとっての「幸せとは何か」すら浮かぶ展開になっている。

 さて、アイドルを取り巻く人間模様を緻密に描いた本作だが、最後に、藍さんご自身が思う「アイドルを取り巻く人たちの幸せ」と、読者へのメッセージをいただいた。

「ドルオタやアイドルにとっての幸せとは何か、正直、私には分かりません。ただ、いわゆる“売れる”ことだけが幸せではないと感じています。それはおそらく、アイドルにとっても、私たちドルオタにとっても共通していると思います。今後も登場人物たちの思いや葛藤を通して、アイドルの周囲からみえてくる一つの実情を伝えていきながら、より多くの人たちに届けられるよう描いていきたいと思います」

 本作を手にするときはぜひ、自分の好きなアイドルを思い浮かべながら読むのをおすすめしたい。作品自体をよりリアルに受け入れられるのはもちろん、アイドルを追い続ける中で生まれるであろうさまざまな思いがきっと、揺り起こされるからだ。

取材・文=カネコシュウヘイ

□『ミリオンドール』が読める!
GANMA!(ガンマ)