出産・子育て

「桜蔭」を読めなかった中卒の父と偏差値41の娘、塾に通わず最難関中学を目指す! その結果は?

 小学校時代の記憶といえば、週5日、土日は昼用と夜用の2つのお弁当を提げて、塾に通ったことが思い出される。田舎の祖母は孫が毎日23時に帰ってくるのを知って「そんなに勉強をさせるなんてかわいそうだ」と呆れていたが、友人たちとの塾での時間は私にとってかけがえのないものだった。もっと身近に、受験の苦楽を理解してくれる人がいたならどんなに良かっただろう。知らなかったことを学ぶ喜びや解けない問題にぶち当たった時の苦しみを真の意味でわかってくれる人が塾以外にもいれば、もっと自信を持って受験に臨めた気がする。

 中学受験ブログ人気No.1の桜井信一氏書き下ろしの『下剋上受験 両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!』(産経新聞出版)では、中卒夫婦である桜井家の娘・佳織さんが信一氏とともに最難関中学・桜蔭中学を目指した様子が記されている。「中学受験=高学歴の家庭がするもの」というイメージがある中で、なぜ中卒の信一氏は娘に中学受験をさせようと思ったのだろうか。塾なしで娘の偏差値41から70まで向上させたという彼は、いったいどのように娘と向き合っていたのか。自らの学歴を卑下しながらも信一氏は娘との勉強の日々を振り返る。

 中学受験をすることになったそもそものきっかけは小学5年生の6月に受けさせた四谷大塚の「全国統一小学生テスト」。「無料だから」と気軽に受けさせた試験の結果は、偏差値41という惨憺たるもので、小学校のテストで時折100点を取ってくる娘が全国の小学生の平均以下の頭であることに信一氏は強い衝撃を受けたという。中卒の妻は「遺伝だからしょうがない」と現実から目を背けようとしたが、信一氏は「このまま娘を大人にしてはいけない、中卒の自分が味わった苦労を娘にさせたくない」という思いが胸の内に芽生えた。塾に相談すると、入塾すれば偏差値を平均並みにはできるという。だが、たとえ、偏差値を平均程にできたとしてもどうやらそのあたりの中学だと中卒の信一氏には聞きおぼえのない「マーチ大学(?)」あたりにしか入れないらしい。「俺は娘を誰もが認めるエリートにするにしたいんだ」。信一氏がネットで情報を集めていると、読み方は分からないが「桜蔭中学」では70名以上の者が東大に受かるらしい。調べるうちにそれが「おういん」と読むのを遅れて知り、娘をそこに合格させようという目標ができた。

 金だけを払って子どもを塾に通わせて満足する親にはなりたくない。そう思った信一氏は娘とともに勉強に励むことにした。本屋で10万円分の参考書を買い込んだ他、ネット上で知り合った中学受験経験者から塾のテキストやプリントを無料で譲ってもらった。送られてきたテキストの至るところに塾で出された宿題を全部チェックしている母親の書き込みを見た時、塾に通わせている家庭をどこかで嘲っていた自分を反省したという。お金がある家でも中学受験をする親は多くの時間を子どもとの勉強時間に費やしているのだ。大卒の彼らより社会的に必要とされてない自分は他の家より時間が割けるはず。「佳織が問く問題は一問残らず俺も解く」。教えるのではなく、一緒に学んでいく。昼間はガテン系の仕事につきながらも、夜は娘と一緒に受験勉強をした。

 しかし、勉強に専念することをなかなか周りは理解してくれない。飲み仲間に「しばらくは会えなくなるから」というと「捕まるようなことしたのか?」と聞かれ、事情を説明しても「娘さんいじめられてんの?」と心配される始末。中卒の妻も「大きな夢を見させてはダメ。絶望するだけ」と猛反対。YouTubeを見ることを何よりの楽しみにしている妻は中学受験の情報を仕入れようとパソコンを占領する夫が許せない。

 勉強も上手くいかない。「×や÷を+−より先に計算する」という四則演算すら怪しい。国語だって「l.15」が15行目を示していることを理解するのに時間がかかった。だが、解き方が分かると言い知れぬ快感が信一氏と娘を包んだ。次第にがむしゃらに解くのではなく、算数ならばどう数字を分解すれば計算しやすくなるのか、国語なら具体的な部分と抽象的な部分を読み分ければ作者の言いたいことがわかるというルールを見つけ出すと成績も確かに上がっていく。

 理解が遅い娘や中学受験に反対の妻にストレスがたまり、精神科で薬をもらうこともあったが、それでも諦めずに信一氏は娘と勉強した。結局その成果は実らず桜蔭学園は不合格だったが、偏差値70の他の中学に見事合格。受かったのはどこだろうか? 豊岡か? 渋幕か? 慶應中等部か? と邪推してしまうが、どこに受かったにしろ、1年あまりで偏差値を30近く上げた娘と父親の努力は決して無駄ではなかったのだ。

 中学受験での経験が人生に与える経験は計り知れない。中学受験で学んだ知識が就活のSPIの役に立つのは間違いない。そして、中学受験で得た経験が他の知識を習得するための基礎を作っているという者も少なくはないだろう。懸命に努力した経験は努力を厭わない頭を作ってくれるはずだ。

 信一氏は、5年後、大学受験で中学受験のリベンジを果たそうとしている。「親塾」の難しさを痛感した彼は、今度は娘をカリキュラムがしっかりした予備校に通わせたいと思いながらも、「娘が勉強でつまずいた時手を差し伸べられるように」と未だ勉強に励んでいるらしい。しかし、そんな信一氏に対して、そろそろ娘離れしてはいかがだろうかと思ってしまうのは、私が20代の娘だからだろうか。中学受験での経験を武器に、自身の道を模索されてはどうだろう。信一氏の娘・佳織さんが成長した時、「パパ、ウザい!ほっといてよ!」と言い出さないか、言い出した時、信一氏がどれほどダメージを受けるか…どうしてもいらぬ心配をしてしまうのである。

文=アサトーミナミ



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