アラフォー女が離婚してまでバックパッカーに! その先に見えた景色とは

暮らし

公開日:2014/8/30

 「失恋したので、旅に出ます」といって、学生時代、姿をくらませた後輩がいた。数カ月後帰ってきた彼女は、インド人男性との数日間のはかない恋をお土産話として聞かせてくれたが、旅は失恋を癒すのにそんなにも有効なのだろうか。とはいえ、学生でもない限り、なかなか長期の休みも取りにくく、旅行など諦めてしまいがちなのも事実だ。だが、大切なのは、「◯月◯日に行く」と決めてしまうことなのかもしれない。一度きりの人生楽しんだものがちだ。数カ月回り道したことで損することはないのだろう。

 『それでも地球をまわってる(アラフォー女 結婚を“卒業”して世界一周へ)』(イカロス出版)は、音羽徒歩氏が結婚を“卒業”してまで、世界一周をした様子を描いた人気ブログが単行本化された本である。アラフォーの彼女が遅咲きバックバッカーとして世界を闊歩する様子は興味深い。離婚後バックパッカーとなった彼女が世界でみたもの、体験したものは彼女の心をどれだけ癒し、成長させたことだろうか。

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 旅先では女性は、女だからこそわずらわしい思いをすることも少なくはない。アジア人女性は年齢より若く見えてしまうのか、多くの人に会って数秒で「アイラブユー」攻撃に遭うことも多くあったようだ。たとえば、エジプトの紅海のクルーズ船に乗り、シュノーケリングを楽しもうとするも船酔いでダウンした時のこと。ひとりのクルーが優しく介抱してくれた。次第に体調は良くなってきたが、それでも震えが止まらなかった彼女に、そのクルーが膝を貸してくれたという。普段ならば絶対に断るところだが、おとなしく頭をもたげ、船酔いに効くというレモンを吸いながら、髪をなでてもらっているうちに体調も回復。ずいぶん楽になったところで「アイラブユー」と言いよられる羽目になったという。おまけにその日、トルコ人のインストラクターには、ウェットスーツの背中のジッパーを下げるように頼まれ、下げてやり、2、3言話しただけで「結婚しないか」と言われたという。外国の人のその勢いには驚かされるが、音羽はどれも笑って切り抜けていたようだ。

 タイでは「“王宮は休み”などとほかの場所につれていき、宝石やおみやげもの等を購入させる詐欺」に遭いかけるし、カンボジアでは三輪タクシー(トゥクトゥク)運転手の激しい勧誘に悩まされるし、どの国でも頼んでもないのに勝手にガイドされて、ガイド料を請求されることもしばしばある。そのたびに彼女は、日本にいるときに「培った」価値観なんて、たちまちちっぽけだと思い知ったという。それにしがみついて、どこか依存して自我を保とうとしていた自分がバカみたいだ。ただ目の前に起こることに身をゆだねていれば良い。それを知るだけでも、こうして外に出てみた価値はあると感じたと語る。

 だが、時折、もし元旦那と2人で出発していたら、どうなっていたんだろうかという思いが頭をかすめたこともあったらしい。彼は少し選り好みの強いタイプだったから、もしかしたらかなり人見知りしていたかもしれない等と妄想しては、彼女は、今、この瞬間に、こういうひとり旅ができていることをとてもラッキーだと感じたという。だが、本当はふたりで行きたかった。この景色を見せたかった。

 しかし、そういう思いは旅が次第に癒していく。ラオスで出会ったアメリカ人のフレッドはベトナム国境で出会った日本人の女の子と10日間の恋をした話を聞かせてくれたし、「移動中、ふと元旦那のことを考えてしまう」という音羽に、「想うだれかがいるのはロマンチックなことだよね」と言ってくれた。インドのゲストハウスのオーナー・カミルには「君は日本の旦那の元に気持ちを残してきてるね。たとえば、彼が毎晩遅く帰ってきて、どうしてどうして、と君は腹を立てる。それでも君の気持ちを彼はわかってくれない。君の頭痛の原因はそこに関係しているよ」なんて音羽の心を見透かしたような言葉を投げかけてくる。旅に出てから、頭痛どころか喘息どころか鼻炎も肩凝りだって治ってしまったくらいなのにと反論しても、「今はそうでも、その感情の原因を取り除かない限り、日本の生活をはじめたらまた戻ってくるよ」と言われたという。そんな風に、自分自身について他人がアドバイスをくれる経験など日本のどこにあるだろうか。海外での旅行は否が応でも自分自身と向き合わざるを得ないものであるからこそ、自分を変えてくれる経験を与えてくれるのかもしれない。

 彼女がどうして旦那と別れたのか本書には書かれていないし、帰国後の旦那との関係についても、その後、どんな生活を送っているかも知ることはできない。だが、きっと世界一周をした経験は彼女の人生を明るく照らし続けるのだろう。大した目的などもしかしたら要らないのかもしれない。ただ、悩みがあるならば、旅に出てしまおう。きっと、あなたを癒す何かがそこで待っている。

文=アサトーミナミ