「妖怪として正統派」古株の妖怪マニアも太鼓判! 『妖怪ウォッチ』の深い魅力【『怪』特別編集顧問・郡司聡さんインタビュー】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

ゲーム攻略本の売り上げが『ドラクエ』を越え歴代最高をマークするなど、子供たちの間で絶大な人気を誇る『妖怪ウォッチ』。「でも、どうしてそこまで人気が?」とひそかに疑問を抱えるあなたのために、妖怪のプロフェッショナルにインタビューしてきました。

登場いただいたのは、妖怪専門誌『怪』(KADOKAWA 角川書店)の特別編集顧問も務める角川学芸出版ブランドカンパニー長の郡司聡(ぐんじ・さとし)さん。妖怪を知り尽くした郡司さんをもうならせる、妖怪ウォッチの魅力とは?

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――郡司さんが『妖怪ウォッチ』に注目するようになったきっかけは?

郡司:タイトルに「妖怪」と入っているので、以前から気になっていたんですよ。仕事柄チェックしておいた方がいいかな、というノリでアニメを見はじめたんですが、これが実によくできている。妖怪の本質をとらえているなと感心しました。

――妖怪の本質とは?

郡司:昔から日本人は、理不尽だったり納得がいかなかったりすることを、妖怪のしわざとして受け入れてきたんです。たとえば、山道を歩いていた旅人が、突然体がだるくなって動けなくなり、ときには死んでしまう。理不尽ですよね。ある土地ではこれを「ひだる神」という妖怪のせいだと言った。科学的には別の原因があるのかもしれないけど、当時は原因がわからないわけです。妖怪のせいにすることで、理不尽さを乗り越えようとした。

――納得できないことの説明になるわけですね。

郡司:詳しく説明すると角が立つことでも、たとえば「狸に化かされた」と言っておくことで丸く収めることができる。日本人の生きる知恵です。そういう社会の潤滑油的な役割を、妖怪は担ってきたと思うんですよね。

――小学生の悩みを反映した『妖怪ウォッチ』によく似ていますね。

郡司:そうなんですよ。『妖怪ウォッチ』は今の小学生たちがリアルに困ったり、悩んだりしていることを吸いあげて、妖怪にしていますよね。ジミーにとり憑かれると、クラスの中で影が薄くなるとか(笑)。その存在のありようが、妖怪として正統派だなと思うんです。

――子供たちはそこに共感しているんでしょうね。「メラメライオン」とか「ちからモチ」とかギャグっぽい妖怪も多いですが。

郡司:そのへんのネーミングセンスも、実は伝統的。江戸時代の絵師、鳥山石燕(とりやま・せきえん)が描いた妖怪画もダジャレだらけですから。

――妖怪って昔からそうだったんですね。

郡司:もうひとつ面白いなと思ったのが、主人公ケータが腕時計(=妖怪ウォッチ)を通して妖怪を見つけ出すという設定。これは古くからある「狐の窓」という遊びにそっくり。両手の指を組み合わせて覗くと、妖怪が見えるようになる、というものです。どこまで意図しているのか分かりませんが、伝統をかなりうまく使っているなあと。

妖怪専門誌『怪』

――『怪』周辺の妖怪マニアの皆さんの反応は?

郡司:ぼくの周囲では皆さん肯定的ですね。登場するのはオリジナルキャラだけど、あり方としてきちんと妖怪ですから、古株のマニアも納得していると思います。

――「あれは妖怪じゃない!」という意見が多いのかと思っていました。

郡司・実在する生物ではないし、そう杓子定規じゃなくてもいいと思います。妖怪のイメージは時代によって変わっていくもの。妖怪って一元的じゃなくて、もっとふにゃふにゃしたものですから。『妖怪ウォッチ』みたいな可愛いらしい妖怪だって、ありだと思いますね。

――これから「妖怪といえばジバニャン」という時代がくるかもしれないですね。

郡司:これが妖怪に親しむきっかけでも、全然悪いと思わないんですよ。むしろ入口としては最適。伝統的な妖怪まで、スムーズにつながっていると思います。興味のある子はここから、水木しげるさんのマンガや、伝統的な妖怪の世界に踏み込んでくれたらいい。10年後、20年後、そこから新しいクリエーターや研究者が生まれるんじゃないですか。

――妖怪好きが増えていけば、『怪』の未来も安泰ですね。

郡司:まあ、いきなり『怪』は読まないだろうけどね(笑)。長年妖怪に携わってきた者としては、興味を持ってくれる子が増えるのは嬉しいですね。

――親子ではまっているファンも多いと聞きます。

郡司:昔から「夜更かししてるとお化けがくるよ」という具合に、妖怪は世代間コミュニケーションにも使われてきたんです。『妖怪ウォッチ』って新しいように見えますが、ベースにあるのは普遍的なもの。地盤がしっかりしている作品なので、息の長い作品になると思いますよ。

そう太鼓判を押した郡司さん。小学生のリアルな悩みを、ギャグを交えながら作品化した『妖怪ウォッチ』の世界観には、日々のつらい出来事をスムーズに乗り切っていこうという日本人の知恵が、脈々と伝わっているのだ。

取材・文=朝宮運河