「人には抜かないトゲがある」辻村深月×藤巻亮太対談

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

公開中の映画『太陽の坐る場所』の舞台は、原作者・辻村深月の故郷でもある山梨県。主題歌の『アメンボ』を歌う藤巻亮太(レミオロメン)も山梨県出身、しかも、偶然にも辻村さんの故郷の隣町出身で、今は合併して二つの町は同じ市になっているという。さらには同学年だという二人が、やはり同郷という矢崎仁司監督がメガホンをとった同映画公開を記念し、『ダ・ヴィンチ』10月号で対談を行っている。

【辻村】 主題歌の「アメンボ」がラストで流れてきた時、“あ、高間響子の歌だ”と思ったんです。クラスの女王として君臨し、欲しいものは何でも手に入ると信じていた、そして今はその輝きを失っている響子の。彼女の歌ではあるんだけど、登場人物ひとりひとりにも寄り添ってくれる歌だなと。

advertisement

【藤巻】 ありがとうございます。

【辻村】 この小説を書いた時、意識していたのは、周りから見ると痛かったり、大したことじゃなくても、本人たちはすごく必死な、その部分。正しくはできないかもしれないけど、自分の思う正しさに忠実でありたいと思う人たちを大事に書きたかった。そのひとりひとりを、傷も痛さも丸ごと受け止めてくれるような歌だと思ったんです。それは歌詞にあるアメンボの“飛べない”というところや、情景の感じとすごく似合っていて。でも多分、この歌が流れてきて一番感動したのは矢崎監督だと思う。

【藤巻】 ははは(笑)。

【辻村】 私は2番目に感動したという自信があります(笑)。

【藤巻】 気に入っていただけてうれしいです。小説は群像劇の中で、いろんな人のそれぞれの10年が高校の時と絡み合っていくものだったんですけど、映画になって、かつての光と影が入れかわったふたりのキョウコを中心に展開していくことになった時、監督がおっしゃっていたのは、人には抜かないトゲがある、ということだったんです。

【辻村】 抜かないトゲ、ですか?

【藤巻】 トゲだったら抜きたいでしょう。痛いし、じんじんするし。だけど、それを抜いてしまったら、自分がバラバラになってしまうようなトゲもあると。その矛盾が僕はすごく人間ぽいなって思ったんです。そこに“生きていく”ということをすごく感じたんですね。その部分をうまく音楽で描けたらいいなと。それは向き合わないと、じんじんしないもので、この物語では同窓会がそうですけど、向き合うタイミングってあるんですよね。そして向き合った時にどうするか。そんな瞬間に立ち会わせてもらっているようなドキドキ感と切迫感みたいなものが感じられて。そんな時、僕は肩を押してあげたいなって。

【辻村】 「アメンボ」という歌はそうして生まれてきたんですね。

【藤巻】 その場に僕がいて、何かできるなら――と思って書いた歌。そう思わされるぐらいのリアリティが、この物語にはありました。

【辻村】 編集の時に、何度も監督のところへ足を運ばれたそうですね

【藤巻】 そうなんです。もともとあった曲を映像作品に使っていただくことはあったんですけど、映画を観させてもらって、ゼロから歌を作っていくのは初めてだったので。

【辻村】 この作品が初めて?

【藤巻】 だからすごく難しかったんです。自分を消すまでに時間がかかったというか。完成しているものだから、そこで“俺が!”(笑)、みたいなのは邪魔だなと。

【辻村】 あぁ。

【藤巻】 自分のミュージシャンとしてのエゴみたいなものが消えていくのに時間かかりましたね。そしてようやく消えた時、メロディや歌詞が出てきたんです。

【辻村】 それでもこの歌に藤巻さんらしいところがあるというのはすごい。すばらしい作家性です。

【藤巻】 実はね、2曲作ったんです。自分をすごく消したものと、すごくプロデューサー的なものと。監督に選んでもらおうと思って。

【辻村】 へぇ、面白い。そうだったんですね。

【藤巻】 言葉は悪いかもしれないけど、ある意味、主題歌にはお客さん受けを強く意識することも必要じゃないかなぁと思って。もう1曲のほうはね。

【辻村】 おおー! そんな覚悟が。

【藤巻】 僕にとっても面白い体験をさせていただきました。自分を消していくことでできていくものと、そうでないものはまったく違っていて。その2曲を聴いてもらったわけですけど、監督は自然に、僕が自分を消したほうの歌「アメンボ」を選んだ。それもすごく面白かった。

【辻村】 そうだったんだ。すごい! 原作の内容とか、映画の世界観とか、そこまで寄り添って主題歌を作ってもらえることってなかなかないですよね。すごく光栄です

同誌ではほかにも、同郷のこと、映画でも描かれる「教室」や「思春期」にまつわるひりつく感情など、二人はたっぷりと4ページにわたって語っている。

(『ダ・ヴィンチ』10月号「辻村深月特集」 取材・文=河村道子 より)