世界初の深海水族館! その人気を支える秘密とは

ビジネス

公開日:2014/9/16

 深海魚と言えば、釣った瞬間に高い水圧から解放され目玉や内臓が飛び出してしまう姿を思い浮かべる人も多いのではないはず。深海魚の多くは浅い海面に上がった瞬間に弱ってしまう。実際に元気に泳いでいる姿を見たことがあるという人は少ないだろう。

 そんな深海魚を見られる「沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュージアム」をご存じだろうか。

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 “海の手配師”と呼ばれる石垣幸二館長のもと多くの深海魚を見ることができる人気の水族館だ。育てるのが難しい深海魚の水族館は世界初である。そこには石垣館長の深海魚を育てる努力や、長く生きられない深海魚を楽しんでもらうためのアイディアがあった。同氏の著書『「水族館」革命 世界初! 深海水族館のつくり方』(宝島社)から「沼津港深海水族館」の人気の秘密を探ってみよう。

沼津港深海水族館

■世界記録を更新したメンダコの飼育

 メンダコは「沼津港深海水族館」の中でも人気の生き者だ。頭に耳ヒレのようなものを持ち8本の脚に張ったスカートのような幕を利用して、UFOが浮遊するようにふわふわ泳ぐタコの仲間だ。可愛らしい姿に人気が高い。

 しかし、メンダコはとても弱い生き物で長く生きられない。「沼津港深海水族館」ではメンダコが見られるとアピールしているのに、死んでしまって見られないということがよくあった。メンダコ目当てで遠方から来る人も多い中で、見られないとなるとクレームが出る。

 それを解決するために石垣館長が悩んで考え付いた方法は“下に泥を敷く”ということ。泥を敷くと、メンダコはだらーんとのびて泥と一体化する。テレビ番組などで知られる耳ヒレを動かしながら泳ぐ姿はストレスの高い状態であった。この方法によりこれまで1日から3日しか生きられないメンダコを27日間生かすことができた。これは世界記録になる。

■メンダコを楽しんでもらう!

 しかし、世界記録を更新してもメンダコを遠くから見に来た人々は満足しない。泥と一体化してしまうと「いるって書いてあったのに、メンダコがいないじゃないか」とクレームが出てしまった。そこで石垣館長は水槽の上からもメンダコを見られるように工夫した。

 元々、メンダコはお面のように見えることからその名がついている。お面の姿を見ることで客の満足度は高まり、クレームは減った。だが、今度は館内の光がメンダコに当たってしまい弱ってしまう。現在、石垣館長は長く生かしつつもメンダコを楽しんでもらうためのアイディアを考えている。

 

深海魚丼

■おみやげで楽しんでもらう!

 飼育の他にもメンダコを楽しんでもらうためのアイディアはある。それは石垣さんの義母が作るおばあちゃんの手づくりメンダコ人形だ。この手づくりメンダコは大人気商品であり、すぐ売り切れてしまう。メンダコがいない日が多く続くと窓口にクレームが殺到したが、手づくりメンダコに涙をつけて「ごめんなさい、今日はお休みなんです」と書くとクレームは減った。家族揃って水族館を盛り上げていくことも「沼津港深海水族館」人気の理由のひとつに違いない。

 長く飼育すること、見て楽しんでもらうこと、この2つを保つためにはさまざまな工夫が必要だ。「これは、研究所にはない、水族館ならではの問題だ」と石垣館長は言う。

 冒頭で書いた深海魚の目玉や内臓の膨らみを解消するためにも、さまざまな努力が必要だ。深海魚の膨らみ、それは体内のガスが水圧の変化で膨らんだ状態。その膨らみを解消するためには、注射器を使ってガスを抜かなくてはならない。お腹の膨らみは死に至るが、目玉が飛び出しただけでは死には至らない。とはいえ、見た目の問題があるため目玉が飛び出したままで泳がせていいものでもない。

 育てながらもお客さまに楽しんでもらう。そのためにも石垣館長は今日も考え続け新しいアイディアを出し続けている。「沼津港深海水族館」の人気の秘密はお客さまに常に楽しんでもらえるように進化し続けているところにあるのではないだろうか。

文=舟崎泉美