清少納言“紫式部と炎上騒動”“他人をねたむ女が嫌い” 『枕草子』時代から変わらない女の愚痴とは

暮らし

公開日:2014/9/23

 「あの女ムカつく。」「上司がウザい。」満員電車に揺られ、何時間もデスクの前で過ごし、疲れ果てて帰宅する毎日を過ごしていると、文明が進歩する程、時代を経るごとに、人のストレスは増大しているのではないかという気がしてくる。もしも、何十年、何百年も昔に生まれていたなら、ストレスフリーで生きられたのかもしれないのに…なんて妄想することもしばしば。だが、どの時代も、人間は変わらない。時代が違えば、悩みも違うなどと考えるのは、実は錯覚なのかもしれない。

 小迎裕美子氏著・赤間恵都子氏監修のコミックエッセイ『本日もいとをかし!! 枕草子』(KADOKAWA メディアファクトリー)によれば、1000年もの昔、平安時代に描かれた清少納言作『枕草子』は、まるで現代の女子たちがストレスを感じるようなことがらにズバズバと切り込んだ作品だという。『枕草子』といえば、「春はあけぼの」で有名だが、描かれているのは、それだけではない。清少納言が日常の中でどのようなことに喜びや悲しみ、怒りを抱いたのか、思うがままに書かれた作品なのだ。平安時代の清少納言が平成を生きる自分と同じようなことでブーブー怒り、苛つき、失敗したり、喜んだりしていることに小迎氏は驚きを感じたのだという。清少納言は「額が出ても縮れ毛だったため、容姿にコンプレックスあり、だからこそ美意識も高い」「思ったことを口に出す一言多いタイプのかなりの毒舌」な人物。「人があまり取り上げられないものをわざと選んで記す」さまは現代でいえば、まさに人気ブロガーといえるだろうか。一条天皇の中宮・定子が没落していく様子を目の当たりにしながら、日常の明るいことばかり描き続けた『枕草子』は現代人の心にこそ響くものがあるのではないだろうか。

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 たとえば、「女としての幸せって専業主婦になることだと思う。早く愛する人の子供を産んで、家庭を守りたい。」なんてぬるい幸せを夢見る女を、清少納言は軽蔑している。女だって、夢を持つべきだ。社会に出て、働いて(=宮仕えして)世の中ってものを知るべきだと少納言は、論を強めている。だから、「仕事バリバリやっている女を妻にするのってイヤだよな。おとなしくて家にいてくれるタイプのが良いよね。嫁が働きに出るのって世間体が悪い。」なんていう男は言語道断。学んで広い世界を見るのが大切なことなのにわかっていない奴が多いと『枕草子』の中で彼女は腹を立てている。

 こう聞くと、「清少納言って未婚のバリバリのキャリアウーマンなのか」と思うかもしれないが、実は彼女はバツイチ、子持ちである。元夫・橘則光氏とは、別れても友達同士という良好な関係性を築いていたようだが、彼の知的センスのなさに愛想をつかして別れたのだという。決して悪い人ではなく、優しい人で、人望も体力もあり、体育会系のイイ男だったようだが、頭の良い清少納言にとっては見劣りする相手だったようだ。現代のキャリアウーマンも同じようなことで悩んでいそうで、なんだかオカシイ。

 清少納言が日常でイライラするポイントは、まるで現代の女子だ。何でも人のことをうらやむ女に清少納言はストレスを感じていたらしい。自分のことについては泣き言と愚痴ばかり言ったかと思えば、口から出るのは、噂話ばかり。そのような女は、ちょっとしたことでもしつこく知りたがるが、面倒だと思って相手をしないでいると、自分の悪口まで広められることになる。そんな女に振り回された様子を清少納言は綴っている。他にも、「以前に関係のあった女のことをしゃべり出す自分の恋人」「でしゃばっていい気になって人の話の腰を折ったり、話の先回りをしたりする人」「急ぎの用事がある時に限ってやってくる人」「空気の読めない人」にイライラするさまはまさに現代にも通じるだろう。

 そんな清少納言を目の仇にしていたのは紫式部。清少納言が紫式部の実の夫のことを実名でバカにしたのが一因だと言われている。「ド派手で悪趣味でTPOをわきまえない恰好をして、ダサかった」。まるでTwitter上での炎上騒ぎを見ているようである。

 高校時代授業で聞いた『枕草子』の授業は全く興味が持てなかったが、こうやってみてみると、現代人と何も変わらない清少納言の姿が見て取れる。ズバズバと毒舌で世の中に切り込んでいくさまは圧巻。「なんだ、昔からみんなが悩むことなんだ」と思えば、ストレスもほんの少し軽くなったように思えるだろう。

文=アサトーミナミ